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「仕方の無い事件でしたね」

 なんて上長は呑気な顔で言うけどそれが詭弁であることはみぃんな分かってて、分かっているけどどうしようもないから誰も何も言わない。

 眼前に広がる血の海。頭を食いちぎられた私のバディの体と、庭のあちこちに散らばった、もみじみたいに小さいおてて。

 数ヶ月ぶりに出た大型の悪魔、狙われたのは幼稚園だった。もう少し早かったら。もっとちゃんと避難誘導が出来ていたら。もっともっと、なんて考えたところで意味なんてないんだけど。

「ねえアキくん、公安やめたくなった? ずっと公安で働いてたら、またこういう景色を見ることもあると思うよ」

 ヘラヘラ言うのは姫野先輩。お身体には傷一つなくって、ああさすが、頼りになる。

「……まさか」

「じゃあ、尚更強くなろうと思った?」

「……」

「愚か! この男愚かですよ、先輩」

「そこがアキくんのいいとこじゃんね〜」

「言ってる場合ですか。……本部戻りますよ」

 今回は民家人の被害が大きいから報告書も長くなりますよ。疲弊した声でアキくんが言うから、なんだか私まで気持ちがげんなりしてきた。

「私たちが悪いわけじゃないのに、やだね」

「悪いでしょ」

「どうして?」

「俺たちがもっと早く動いていれば、助けられた命があったかもしれない」

「傲慢だね」

「そういうアンタは無責任ですね」

「悪いのは悪魔でしょ? キミは自意識過剰だと思うよ」

「はあ? 誰が」

「はいはい2人ともそこまで! もう、███ちゃんとアキくんはいっつも喧嘩するんだから」

 仲裁したのは姫野先輩。「せんぱぁい」甘えた顔で抱きついてみせると、ますますアキくんの眉間のシワが深くなる。そんなに不快なら自分だって姫野先輩に抱きつけばいいのに。って言ったらますます怒るだろうな。

「じゃあさ、息抜きしようよ2人とも」

「ん……♡ 先輩、今日はちゃんと相手してくれます?」

「あはっ、もちろん。アキくんも家来るよねー?」

「……」

 黙り込むけど否定はしないアキくんを見て、私と姫野先輩でくすくす笑った。そういう所は可愛いんだけどな。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 お酒の味がする。姫野先輩が好きなビールの味。苦いから嫌い。そもそも今日は遅くまで起きてるんだからほろよいくらいにしてくださいって言ったのに、家に来てみたらビールしか用意がなかった。おかげで今日は酔えそうにない。だって私甘いお酒しか飲めないもの。

「ぷぁ……♡ 姫野先輩のキスにがい、きらい……わたしとキスするならお酒もタバコも数時間前からやめてって言ってるのに……」

「んん、じゃあもうチューするの辞めちゃう……?」

「それは話が別だもん……」

 ちゅ、ちゅ、ちゅ。短いリップ音。姫野先輩って唇がやわらかくて気持ちいい。大好き。ずうっとちゅーしてたい。ワイシャツの裾を引いて唇にすがった。好き、好き、大好き。なんにも考えたくないなあ。

「……あの」

 なんて考えてるところに水を差される。姫野先輩が離れていって、私は仰け反って頭上のアキくんの顔を見た。

「ん……なあに?」

「……なんで俺の膝の上でキスしてるんですか」

 その通り、私はアキくんのあぐらの中に身を預けていて、姫野先輩は女の子座りで、向かい側から挟み込むようにして私の頬を握っている。

「んー、見せつけるため?」

「はあ……?」

「アキくん混ざりたいのー?」

「……そのつもりじゃないならなんで呼んだですか」

「んふ、鑑賞するだけでも楽しいかなぁって」

 ビール缶をくぴ、と一口含んだ姫野先輩の喉が動く。あ、またぁ……と思った瞬間にはもう先輩の唇がふにっと押し付けられていて、つめたい液体がぬるりと口の中に流し込まれてくる。えっ、なに、なになに。

「ん゙、ん゙っ゙♡♡!?」

 まず苦い。にがい。喉の奥が閉じるより先に容赦なく注ぎ込まれて、口の端からたらりとこぼれて顎を伝う。あぁ姫野先輩のシャツに垂れる、これクリーニング代こっち持ちかなあ、なんてどうでもいいことが頭の隅をよぎる。や、洗濯すればいいのかな……。

「んぐむっ、っむぅ〜……っ゙!! ゔ!!」

「あはっ、不意打ちの口移し成功〜♡ ねえ███ちゃん、ビールおいしい?」

 じたばた暴れる。美味しいわけない。首ぶんぶん。アキくんの胸板に頭をぐりぐり押しつけて抗議する。にがいにがいにがい、もうやだ、口の中だけでもどうにかしたい、なのに姫野先輩は唇を離してくれてもまだにっこり笑って缶を傾けて待機していて、それで――

 咄嗟に、後ろを振り仰いだ。

 顎を反らしてアキくんに、ぐい、と顔を寄せる。

「は? いや、ちょっ――」

 戸惑った声をかわいそうとも思わずに、口の端から漏れそうな苦みごとアキくんの口にぐにっとなすりつけた。半分やけくそ、半分は仕返し。だってアキくんだってビール飲んでるんでしょ。だったら一口くらい引き取ってくれたっていいじゃない。

 だけど返ってきた反応は予想と違った。

 ぐっ、と後頭部を鷲掴みにされる。大きな手のひらが髪の中に食い込んで、私の顔をアキくんの方へ固定する。あれ、と思う間もなく、開いた唇のあいだに熱くて固い舌がぬるりと差し込まれてきて。

「んむ゙〜……っ!!?」

 ふか、い。深い。今度は苦みを舐めとるみたいに口の中を遠慮なくかき回されて、思わず爪を、アキくんのワイシャツの胸ぐらに引っかける。ぎゅ、と握り込んだスーツの布地の感触。んっ、んっ、と切れぎれに鼻から漏れる自分の声。耳の奥がぼうっと熱くなる。

「……っ、ぷはっ……」

 ようやく離れたときには口の周りが涎でぐちゃぐちゃで、私はぼーっと半開きの目で天井を見ていた。あれ。私さっきまで誰の上に乗ってたんだっけ。なに飲まされてたんだっけ。

「うわぁ、アキくん本気じゃん?」

「都合のいい時だけ頼られて頭に来たので」

「ぅ゙……」

 くすくす、と楽しそうな姫野先輩の声。視界の端でまた缶を傾けて、自分の唇をぬらりと湿らせる仕草。

「███ちゃーん、こっち向いて。お口直ししようね」

 うん、と頷くより先に顎を引き寄せられて、また唇が重なる。ちゅ、ちゅ、ちゅ。さっきと同じ、短いリップ音。さっきと同じ、姫野先輩のやわらかい唇。やっぱり苦い。にゅるにゅるして、ふわふわして、あっ、あっ、あ。

 ちゅ、ちゅ、と短いキスがじわじわ深くなっていく。姫野先輩の舌がするりと入り込んできて、私の舌に絡まって、にゅる、にゅる、と気持ちのいい摩擦音。にがいビールの味なんてもうどうでもよくなって、口の中は姫野先輩でいっぱい。好き、好き、大好き、もう何回目かわからない。

 ぼーっとする頭の片隅で、何かに気づく。

 あれ。なんか、背中のあたりが、すうすうする。

 ふと意識を戻したときには、もうワイシャツのボタンが上から3つ目まで外されていた。誰が、なんて聞くまでもない。背後の人だ。

「あっ……あっ、えっち……♡」

「何を今更」

「███ちゃんだって期待してるくせにぃ」

 姫野先輩がにっこり笑って、私の頬をすりすり撫でる。期待してたわけじゃないもん。たぶん。していたとしてもこんなじゃないもん。

「えへ、アキくんそのまま上脱がせて? 私下脱がせる〜」

「あっやだっ、姫野先輩も脱いでっ!」

「はいはい、後でね〜」

 ぐ、と背後からアキくんが両手を回してきて、ワイシャツの袖を肩から落とす。器用な指。普段のしかつめらしい顔からは想像できないくらい、こういう時のアキくんの手つきって、やさしい。ちょっとむっとする。けど、すぐにそれどころじゃなくなる。だって姫野先輩の手がスラックスに伸びていて、しゅる、って……。

「ひゃっ」

「ふふ、すべすべ〜」

 太ももを撫でられる。ふくらはぎを掬うようにして、スラックスと一緒にストッキングまで一気に引き下ろされて。気がついたらワイシャツも、腕からするりと抜かれていて。

「あっ、やだ、やだやだやだ」

 じたばた、と上半身を捩る。けど、背後のアキくんがしっかり抱え込んでいて、逃げ場がない。前は姫野先輩。後ろはアキくん。挟まれて、薄手の下着姿にさせられる。

「やだぁ、私ばっかり……私も姫野先輩脱がせたいのにっ」

「ん〜……♡?」

「いつもそうやって誤魔化すぅっ……」

 ぐ、と顎を捕まれる。今度は後ろから。アキくんの大きな手が顔の輪郭を辿って、強引に首を捩じらせて、視線を合わせさせて、それで――

「んむっ……ふ、んぅっ……♡」

 また深いやつ。さっきよりさらに容赦のないやつ。後ろからの角度でもこんなにしっかりちゅーできるんだ、と初めて知る。姫野先輩の目の前なのに。うう、ううう。

「あは、いい眺め〜」

 姫野先輩がうっとりと頬杖をついている。にこにこ笑って、私の下着の縁に指をかける。

「下着も脱がせちゃうから、アキくん大人しくさせてて」

「ん……っ、ふぁ、ひめのせんぱ……っ」

「今はこっちですよ」

「うぁ」

 ぷつ、背中のホックが外れる音。アキくんがキスをやめないまま、私の背中に手を回して、ブラのホックを簡単に外した。

 ふ、と肩からストラップが落ちる。するり、と布が剥がれる。ショーツが脱がされる、足先を抜かれる、すとん、と床に落ちる。

 気がついたら、本当に本当に、一糸まとわぬ姿になっていた。私以外の二人は、まだ、シャツすら脱いでいないのに。

「……っ゙、ゔ〜〜〜……! なんでいっつもこうなるの……!」

 ぎゅ、と膝を抱える。胸の前で腕を交差させる。けど、隠せる範囲なんてたかが知れていて、肩も腰も全部むき出しで、唇を噛んで、ふるふると震えた。なんで、なんでこんなことになってるんだろう。私だって対等な立場、の、はずなのに。

「はいはい、じゃあ移動しましょうね」

 ひょい、と。横抱きにされて運ばれる。床に置き去りにされた下着がしくしく泣いている気がする。

「 ちょっと、ちょっとちょっとアキくんお姫様抱っこやめて、もう恥ずかしさのキャパシティが超えてるんだってば」

「一瞬のことでしょ」

 ぽふ、とベッドの真ん中に下ろされた。冷たいシーツ。剥き出しの背中にじわっと染みる感触。

 すかさず、左右からふたつの体温が乗ってくる。

「███ちゃ〜ん♡」

「先輩、こっち先」

「あはっ、奪い合いする気? いい度胸じゃん」

「あっ、あっ……♡」

 右から姫野先輩、左からアキくん。順番に唇が降ってくる。ちゅ、ちゅ、と姫野先輩、それから後ろから首を捻られてアキくんとも。明らかにテンポも深さも違う二種類のキスを交互に受けて、頭の中が二色の絵の具みたいに混ざる。にがいビールの味と、多分歯磨き粉の、ミントの息。ぜんぶ気持ちいい。幸せ。頭がぽやぽやしてるから、幸せ。だんだんどっちがどっちでもよくなってきて、私もぎゅ、と腕を伸ばして、手前にあった方――アキくんの首に絡みついた。

「ん……っ、んぅ……」

 吸い付くみたいにちゅーする。今度はこっちから舌を入れる。アキくんの肩が、ぴく、と揺れた。

「っ……積極的、ですね」

 耳元でちょっと笑った声がする。ちょっと、ちょっとだけ、嬉しそうな。何笑ってるの。何でかわかんないけど気に障る。なんでだろう。

「う、あっ」

 ぐる、と身体を回転させて、アキくんの腰に跨った。シャツの上から見下ろす形。びくっと姫野先輩が「おっ」と弾んだ声を出すのが横で聞こえる。

「ちょっと」

「ふーっ……まずはキミを全裸にするっ。それ終わったら先輩剥くの手伝って!」

「きゃ〜こわぁい♡」

「はいはい、分かりましたから、ちょっと落ち着いて……あ、っ」

 ぷつん。あ、と思ったときには、いちばん上のボタンが指の間から弾けて、ころ、と床に落ちていた。あ。あー。やっちゃった。どうしよ。

「ああ、もう……」

「ご、ごめん、ごめんね、後で縫う、私お針箱持ってるから……」

「いいですよ、もう、自分で外します」

 はぁ、とため息混じりにアキくんが起き上がりかけて、けど私が太ももで挟み込んでるから半分しか起きれなくて、結局腹筋でぐっと持ち上げた中途半端な姿勢で、自分でぷつ、ぷつ、と外しはじめる。器用。それに、あれ。腹筋。すんごいな。なんか、すごくえっちだ。フェティッシュな……視線が落ちた先で気付いて、私はとっさに目を逸らした。

 逸らした先で、姫野先輩が、にま、と笑っていた。

「███ちゃーん」

「な、なに……」

「アキくんの腹筋そんなにかっこいい? さみしいなあ。私もかまって欲しいでおぎゃ〜」

 ふぃ、と背中から手が回ってきて、背中合わせで覆い被さってきた姫野先輩が、私の胸元に顔を埋める。

「やんっ……♡スケベばぶちゃん!!」

 ぴり、と背筋に走る。あ、これ、ずるい。これずるい。ゾクゾクして手が止まっちゃう。……でもとにかく頑張る。アキくんの肩からシャツを落として、ベルトに手をかけて、しゅる、とファスナーを下ろす。スラックスを引き下ろす。ばるん、弾んで現れた、その、あれ。あれ。

「あはっ、アキくんちょー勃起してる……♡」

「お陰様で」

「なにそれぇ……」

 なんでそれ私に向かって言うの。なんで全部私のせいなの。けど反論する言葉が出てこなくて、唇を尖らせて、それから――気を取り直して。

「まーいいや。勃起してるアキくん、次、姫野先輩剥きますよ」

「……」

「あはは、はぁい♪ ばっちこーい♡」

 そうして、ふたりがかりだとあっという間だった。姫野先輩のシャツのボタンを私が前から、ファスナーをアキくんが後ろから。器用に絡まず、手と手がぶつかることもなく、まるで何度もやってる手順みたいに――いや実際、このふたりは、何度もやってるんだろうな。むぅ。あとでこの件については、ちゃんと、話し合いたい。

 くたっ、と姫野先輩のブラが床に落ちた。

「きゃあ〜襲われる♡」

「……ね。姫野先輩、ちゅーしましょう」

「ん♡」

 ようやく対等に裸の姫野先輩を抱き寄せて、唇を重ねる。ちゅ、ちゅ、それからすぐ深く。素肌のぬくもりが直に当たって、胸の柔らかさが押しつけられて、あぁ、これだ、これが欲しかったんだ。なんで私だけずっと裸だったんだろう、と今更ぶり返したい気持ちもあるけど、もういいや。今のうちにいっぱい甘えとこ。

 だけど案外すぐ唇を離されて。

「んね、███ちゃん、アキくんちょっと寂しそーだよ……?」

「……ぅ」

 囁かれて、ちらりと視線をやる。すぐ側でなんとも言えない顔でこっちを眺めているアキくん。眉間にしわ。あれは確かに、ちょっと、寂しい顔。ふー、ちょっとわざとらしく息を吐いてから、私は手を伸ばした。

「ぅ……ならアキくんもちゅーしよっか、おいで」

「……ん」

 即答すぎてちょっと笑っちゃう。ベッドの真ん中、三人ぜんぶ裸で、私の左右にひとりずつ顔を寄せて。ああ、今日死んだバディはお化けになってこの3P見てたりすんのかな?とか、そんなことを急に思った。あーあーあー今そんなの考えたくない、考えたくない、気持ちよくなりたい、楽しくなりたい。やだ、やだ、やだやだ。

 ちゅ、と三人で唇を寄せ合ったまま、ちょっとずつ流れが変わっていく。左から太ももの内側を、手のひらがするりと撫で上げた。骨ばってて、大きくて、迷いがなくて、それでいて――撫で方が、やさしい。

「あ、っ」

 追いかけるみたいに、指先が足の付け根のもっと奥、くち、くち、と入口の輪郭をなぞる。撫でるだけ。まだ入れてこないけど……。

「ん、ちょ、っ、アキくっ……」

 もう片方の手で太ももを抱え込まれて、ぐ、と脚を開かされる。逃がす気はないらしい。

「えいっ♡」

 なんて、アキくんに気を取られている隙に、目の前でふるふる揺れていた姫野先輩のお胸をぐ、と顔に押し付けられた。視界が押し潰されて、柔らかいので塞がれて、ふわふわの甘い匂い。これどこの香水だっけ。柔軟剤?姫野先輩いい匂いだなあ。とろけた頭で全然関係ないことを考えながら、素直にお胸に吸い付く。ちゅ、ちゅ。舌で転がす。歯を当てないように。ちゅう、と吸う。尻尾があったら絶対振ってる。

「んぐっ……っ、ふぅ、っ……!」

 その隙に下腹部からくち、と濡れた音。あ。やだ。私、もう、こんなに。

「……どろっどろ」

「い、わ、言わないでぇ……っ」

 咥えた胸の頂越しに、くぐもった抗議。けど姫野先輩がくすくす笑って、もっと深く顔を押し付けてくるから、私は声を呑むしかない。ちゅう、ちゅ、と必死に吸う。何かに掴まっていたい。

 ぐ、と指が一本増える。

「っ〜〜〜!! ふ、っ、ぁ、んっ、ん゛、っ」

 ばらばらだったリズムが確かなものに変わって、頭がぐちゃぐちゃになる。やめてほしい。やめてほしくない。やめないで。頭がぽやぽやしてくる。あ。これ、もうだめなやつだ。わたし、こういうのに、よわい。

「あっ、あ、っ、ぁ、ぁ、んっ、んん、んん゛っ、っ」

 ふるふる……逃げ場のない左右からの圧。前は姫野先輩の柔らかさ。後ろからはアキくんの胸板。下からは、指。指、指、指。くち、ぐちゅ、ぬち。やだな。耳までぼうっとする水音。バディが死んだ日に……ああ、ああ、ちがう、そんなことどうだっていいんだってば!

「あ、いっちゃ、う、いく、いっちゃ、っ、ふぁ、っ、んん゛〜〜っ♡♡」

 ぎゅっと姫野先輩の胸に顔を埋めて、咥えたまま、いっかい、達した。足がぴんと伸びる。頭の中、まっしろ。

「あは、おっぱい飲みながらイったんだ? かわいい〜」

 姫野先輩がにこにこ笑って、私の唇から自分の胸をちゅぽ、と外す。離さないでほしかった。掴まるところがなくなる。もう少しだけ甘やかして、と息を吐く間もなく。

 まだ抜かれてない指が、ぐ、とまた動いた。

「ぇ、っ、ま、まって、まっ、いま、いったばっ、っ、ぁ、ぁあ゛、っ」

「待ちません」

「ふぎゃ゛〜〜〜っ♡♡」

 即答で却下された。なんで! さっきよりさらに奥。さっきよりさらに深く。痺れの抜けてない場所をそのまま削るみたいに擦られて、私は声にならない声で姫野先輩の胸にしがみつく。

「えいえいっ♡ ほら、もう1回お口埋めてあげる」

「んっ……♡♡」

 息ができない。口で吸うしかない。ちゅ、ちゅう、ちゅ。涙が滲む。何のために泣いてるのかもよくわからない。

「あっ、んっ、んん゛ぅっ……っ♡♡」

 二回目。今度はもう声にもならなくて、ふ、と全身の力が抜けて。それから指が抜かれる。ようやく。

「先輩、そろそろ」

「ほら███ちゃん、こっち向き〜」

 くるん。姫野先輩に肩を押されて、私はうつ伏せ気味に体を回された。後ろから腰を引き寄せられて、四つん這いみたいな格好にされる。腰骨を両手で掴まれる。アキくんの大きな手のひら。指の長さがそのまま骨に押し付けられて、今更ながらにすこし緊張する。本当に今更。こんなの初めてじゃないのに。

「準備、いいですか」

「ん、ぅ、ん」

 頷くしかない。だってもう頭がふやけてて、まともな返事ができないし。ぐ。あ。あ、あ、あ、あ、あ。毎回そうだ。慣れる、なんてことがない。アキくんの、それ。とにかく、おおきくて、苦しくて、入れられただけでギブしそうになる。今日も例外じゃなくて、もうすでに足がシーツを蹴っている。

「あ、ぁ、ぁ、っ、ぁ、っ……っ、おっき、おっきいよぉ……」

「……毎回言いますよねそれ」

「いつもおっきいんだもん……ぅ、ぅ、ぅ……っ」

 奥まで来た。ぴたん、と腰が当たる。きもちいいというよりくるしい。ぎちぎちする。目の前で姫野先輩が頬杖をついていて、あっ、あっ、あっ、さわりたい、姫野先輩にさわりたい。もっと……。

「せんぱ、せんぱいっ」

「うん?」

「なめたいですっ、せんぱいのっ」

「あは……♡ いいよ、今日は███ちゃんを慰める会だからね」

 ぱ、と先輩が膝を立てて足を開く。そんなこと初めて聞いた。でももうなんでもいい。

「おいで」

 ぐ、と頭の後ろに手を回されて、姫野先輩の太ももの間に押し付けられる。同時に後ろからアキくんが腰を動かして、頭の奥がチカチカした。

「んむぅ゛ぅっ♡♡」

 声が先輩に潰されちゃうけどもっと。もっと、もっと。ちゅ、ちゅ、と必死に舌を伸ばす。前から姫野先輩、後ろからアキくん、両方から塞がれて、私はもう逃げ場が一個もない。いい。すごく。

「ん……じょうず、じょうず……♡」

「ふっ、ふぁ、っ、んっ、んぅっ、っ」

 やさしい。よしよし、される。気持ちよくて、頭ぽわぽわして、ぐちゃぐちゃになって、さっき指でいかされたばっかりの場所をそのまま削られて、私は何度目かわからない達し方をして、姫野先輩の太ももを濡らす舌の動きすらおぼつかなくなって、

 あれ。

 わたし。

 いま、なに、して、る、んだっけ。なんでこんなことしてんだっけ……なんで3Pなんか……ぼーっとした視界の端で、白いものが、ちらつく。もみじみたいに小さい。あ、ちがう、ちがう、これは姫野先輩の指、姫野先輩の白い指、ちがうちがう、見えてるのは、ちがう、もう、考えるな、考えるな。

「あき、あきくっ、ぬいて、いっかい」

「は……なんで」

「ごむ、や、きょう、なまがいいっ……」

「はあ?」

 ぐ、と止まるアキくんの動き。後ろから、戸惑った気配。その隙に、私はじわじわとそれを口にした。姫野先輩のお腹に頬を擦り付けながら。

「うううーっ、アキくんとのあかちゃんつくる……」

「何を急に……」

「あはっ……本格的にバット入ってきた?」

 私を撫でていた手が止まる。ほっぺたをすりすり撫でられて、ますます涙が出てくる。

「今日死んじゃった人の分、私が産むっ……うむのっ……」

「はあ?」

 涙がぼろぼろこぼれる。姫野先輩の太ももを濡らす。さっきまでとは違う種類の濡らし方で。一瞬空気がとまる。わたしも〜〜〜〜何言ってるんだろう……ちょうヘラい。姫野先輩がちらりと頭の上のアキくんに視線を投げるのが伏せた顔の上でなんとなくわかる。

 たぶん、ふたりが、私を頭ごしに見て、なにか目で短い相談をして……。

「ひあっ」

 ぐ、とゆっくり腰を引かれて中のものを抜かれる感触。空っぽになるのが、急に、すごく切ない。情けない声が出そうになる。やだ、もどして、もどして。

「これで満足ですか」

「あ、あっ」

 お返事の代わりに、ぐ、と、また奥まで、押し込まれた。今度はなんにも隔てるものなしで。

「あ、あ、あ♡」

「アキくんの子供なら優秀そうだねー」

「中、には、出さないですよ」

「なんでえっ、うわーん! うわーん! なかにだしてっ、産むのっ、アキくんの赤ちゃんうむっ!」

 姫野先輩のおなかにぐりぐり顔を擦り付けながら、足をじたばたさせて駄々をこねる。中はぱんぱんで、なのに動きが止まってて、空っぽにされるのが怖くて、なんでもいい、もうなんでもいいから――。

「わあ、すっごいこと言ってる。アキくん孕ませてあげたらー?」

「そんな無責任な……」

 はぁ、と背後で長いため息。それから動きが一旦止まる。中のものはまだ抜かれてないけど。

「というかそもそも。子供、作ろうと思っても作れないんじゃないですか」

「うえっ」

「あー。黙っててあげたのに。可哀想だよそれ言ったら」

 姫野先輩がちょっと困ったみたいに眉を下げた。すっごい優しい目で私を覗き込んでくる。なんで。なんで2人とも、急にそんな顔するの。後ろから両腕がぐ、と回ってきて、上体ごと抱きしめられる。アキくんの胸板に背中をぴったり貼り付けられて、汗ばんだ皮膚と皮膚がくっついて、心臓の音が、どっ、どっ、と耳の奥まで響く。なに、なんで、なんで……あ、あ、あ。

 あ、そっか。こども。私、子宮、契約に使っちゃってない……。あー。はー、と、口から間抜けな息が漏れた。すっかり忘れてた。ほんとに、すっかり、忘れてた。もうないんだった。当たり前。今更。なに泣いてんの、わたし。頬を伝う涙の温度が急に変わる気がする。

「わ゛ーっ! じゃあ私どうやって今日の埋め合わせしたらいいのー!」

 わんわん泣いた。アキくんの腕の中でじたじたするけど動かなくて、黙ってろとばかりに子宮を小突かれる。ぐじゃぐじゃ。死んだ子の代わりに産むとか、なに様。だいたい産めないじゃん。ばか。ばかばかばか。背中のアキくんは何も言わないで奥を小突いてる。あ、あ。直にこすれてきもちいい。頭のなかまっしろ。かんがえないとっておもうのにどうでもよくなりそう。

「んー……やっぱ相当キてたんだねー、よしよし、ほらおっぱい飲む?」

 姫野先輩の声がやさしい。膝歩きで近付いてきた先輩の胸の谷間にぐ、と頭を抱え込まれて、よしよし、と髪の毛を撫でられて、素直にちゅ、と吸い付いた。いつのまにやら、キスしてもにがいビールの味なんてもうしない。ただ甘くて、あったかくて、ふわふわで――こういうの、お母さんって、こんな感じだったかなあとか、ぼーっと思った。口に出したら姫野先輩が拗ねるから言わないけど。

「うう、姫野先輩アキくんの赤ちゃん産んでぇ……♡」

「言ってることめちゃくちゃだよー?」

「ほら、今は俺の相手でしょ……こっち向いてください」

「ん、っ……♡ も、いっぱいイったから、やぁっ……♡」

「っ……なかに出せって言ったり、やめろって言ったり、どっちなんですか」

「う゛~~~っ……♡中に出さないならぬいてっ♡」

「ふふ、自分勝手」

「はあ……」

 ぐ、とアキくんの腰がまた動き出す。今度はもう躊躇いなく、深いところを、ぐぐぐ、と何度も何度も。私のひざがシーツを蹴って、姫野先輩の太ももにすがって、アキくんの手のひらが腰骨にぐっと食い込んで――

「あっ、あ、あ、っ、ぁ、ぁっ、んっ、んん゛っ、っ♡♡」

 もうだめ。さっきからずっとイってるのに、休ませてくれなかったから、ぜんぶ溶ける。溶けて、流れて、奥の奥でぐにゃぐにゃして、

「あき、くっ、っ、もう、もう、っだして、なかに、だしてっ、もうやだっ、はやくっ……♡♡」

「……子供も出来ないのに?」

「う゛ああ゛っ!!!」

「ふ……意地悪」

「詰られた方が楽になるんでしょ、こういう時。前に言ってたじゃないですか」

「ふ、ふ、ふぅ゛……っ゛……♡」

 大正解、花丸。その冷静さだけはいつもの淡々としたアキくん。なのに腰の動きはぜんぜん淡々じゃなくて、ぐっ、ぐっ、と最後の方は短く深く、奥の奥をぐりぐり押し潰して――

 あったかいのが、奥に広がる。子宮、もうないのに、それでもきもちいい。

「ぁ、っ、あ……♡♡」

 ぎゅ、と全身が硬直して、それから……それから。姫野先輩に抱きついたまま、肩が上下するのを止められない。ぜんぶ抜けた。気力も体力もない。からっぽ……。

「は……これで満足、ですか……」

 背後から短い声が帰庫あえて、あ、アキくんも息が切れてる、と気付いた。ちょっとうれしくなる。余裕ぶってるくせに、なんだ、そっちも一杯一杯じゃんね。

「アキくんっ……」

「はい」

「ちゅうしてぇ……」

「……はい」

 振り仰いだ顔にすぐ唇が降りてきた。さっきまでのぐちゃぐちゃに容赦ないやつじゃなくて、ちゅ、ちゅ、と短いリップ音だけのふやけそうなキス。それで気付いた。あ、これ。これ、私が姫野先輩としてたのと、おんなじやつだ。そうだねアキくんにキスを教えたのは姫野先輩だもん、そうだね、そうだよね……一緒に決まってる、よね。あったかい。とろける。すきだなあ、こういうの。

 ちゅ、ちゅ。ちゅ。

 舌までは入れてこないで、唇の表面だけ、何度も何度も。アキくんがこんなふうにちゅーするの、初めて見たかも。いつも噛みつくみたいな意地悪するのに。今日はすごくすごくやさしい。

 ぼーっとした頭の片隅で、ふと、おかしくなった。

「……アキくんも、たいがい、頭変になっちゃったね……」

 慰めで性行為なんて、本当は大嫌いなタイプでしょう。3Pなんて言語道断、お酒だって付き合いで仕方なく、って、初めて誘ったとき頑なに断ってたくせに。あれ? それは未成年だったからだっけ? なんだっけ……色々あって私と姫野先輩で、何回も何回も誘って、いじめて、甘やかして、ぐちゃぐちゃにして、それで、いつのまにか、こんなふうに、ちゅーを、返してくれるようになって。

「……、……今更それ言います?」

「ん……意地悪で言ってるわけじゃないよ?」

「分かってます。いいです、もう」

 それから、また、ちゅ、と落としてくれる。寂しいときの輪郭がいっこ減る。ああでも待って。もぞもぞ、と上体をひねった。横を向く。姫野先輩が少し拗ねた顔をしていて、それを見たら胸が切なくなって、一生懸命腕を伸ばした。

「しぇんぱいも、ちゅう……」

 とろけた舌で、ちゃんと言えなかったけど。姫野先輩、姫野先輩。私、姫野先輩のキスもほしい。さみしい。

「おい」

「独り占めしたい派? アキくんかわいー♡」

「そういうのじゃ……」

「うえぇ……キスするんだもん……」

 ぴく、と腕を持ち上げようとして、ぜんぜん上がらなくて、ぽてっと落ちた。あ。動けない。ほんとうに動けない。けど姫野先輩はくすくす笑って、わざわざ顔を寄せてくれて、ちゅ、と短く唇を重ねてくれる。それから、ちゅ、ちゅ。ぜんぶやわらかい。ぜんぶあったかい。にがいビールの味、もうしない。好き。柔らかい。すき、すき……。


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 目を開けたらカーテンの隙間から朝の光がまっすぐ差し込んでいて、まぶしさに顔をしかめる。あさ。あさだ。いつのまにやら、寝落ちしていたらしかった。顔がぐちゃぐちゃ。ぱりぱり……やだなあ。洗いたい……。むき出しの肩に寒気。布団は私のおなかのあたりにくしゃくしゃに丸まっていて、これって置いてる意味あんの。

 隣の姫野先輩は、お腹を出して仰向けで寝ていた。タオルケットの端を口に咥えて、すぴ、すぴ、と寝息。お行儀のわるい寝相。かわいい、かわいい、すき……寝起きでもうしわけないけど、唇に吸い込まれるようにキスをする。かわいい、かわいい……はっ。こんなことしてる場合じゃない。それで、反対側にアキくんは……いない。あれ。もぞもぞと起き上がる。腰、腰がいたい。ぎし、と全身が軋む。ベッドのへりに座って、足の裏を冷たい床につけた感触ですこしだけ正気に戻った。

 台所の方からコーヒーの匂いがする。

 あれ、ここ誰のお家だっけ……あ、姫野先輩のお家、と思い出すのに3秒くらいかかった。いよいよ頭キてるなーわたし。その辺にあったパーカーを羽織って、袖が手の先で余って、けどあったかいからまあいいや。


 カウンターのところに立っていたのはやっぱりアキくんだった。シャツとスラックスはちゃんと着ている。ちゃんとシャツのボタン替えのストックを姫野先輩の家に置いてるから。あたりまえみたいな顔で戸棚からマグカップを出していて、ああ本当にこの人、ここに何回来てるんだろう。むぅ。

「……おはよ」

「……起きたんですか」

 振り向きざまにちょっと目を逸らされた。なんで。あ。私、ものすごい寝癖、かも。慌てて頭を押さえる。……あ、てかそれ以前にわたしパンツはいてない。なんだよ、寝てる間に履かせてくれてもいいじゃんね。

「コーヒー飲みます?」

「うん。お砂糖いっぱい入れて」

 ことん、とカウンターに置かれたマグカップ。湯気。私はちょこんと椅子に座って、両手で抱えて、ふぅふぅ、と冷ましながら一口。

「姫野先輩おこしてくる」

「その前に風呂行った方がいいんじゃないですか」

「その間に先輩といちゃちゃする気!? 許さないからそんなの!」

「寝起きからヒスんないでくださいよ」

 お風呂には先輩と一緒にはいる。それであらいっこするの。それでまたいちゃいちゃする。それで、それで……。

「……あきくん」

「なんですか」

「公安まだやめる気ないの?」

 君が公安をやめないと、先輩もやめてくれないんだよ。結局、そういう感じなんだもん。先輩が公安をやめないなら私もやめられない。ずーっと、こういうことの連続になる。いやなことばっかり。また小さな子供の亡骸を見ることも……。

「先輩のこども、抱っこしてみたいな。でも私じゃ作れないから」

「無神経ですよ」

「気は変わらない?」

「変わりません。だからこうやって現実逃避にも付き合ってるじゃないですか」

「……」

 返事に困った。だから黙った。マグカップの縁を指でなぞる。アキくんは公安をやめないし、私もやめない。姫野先輩は私たちがやめないからやめない。私は姫野先輩がやめないからやめない。わあん。わーんわーん。ひどいよ、アキくんは、酷いよ。姫野先輩もひどいよ……自分勝手だよ、なんて、私だって同じ穴のムジナなのに。

「じゃあ今日も付き合ってくれる?」

「……身体大丈夫ですか?」

「そうじゃなくて。仕事終わり、お花手向けに行くの……」

「ああ……それなら姫野先輩も起こしましょうか」

「うん」

 アキくんが奥の部屋に行くのを見て、私はなんだかひどく虚しくなる。


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