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 夢を見ていたらしかった。何の夢か思い出せないのに動悸だけ残っていて、隣を見たらデンジくんが寝ている。いる。ちゃんといるのに、いるのに、と何度心の中で確認しても、心臓のあたりがすうすうして治まらない。


 布団から手を出してデンジくんの腕に触れる。あたたかい。薄掛けの中で体温だけがやけにはっきりしていて、ああ、私は今これがないと駄目なのだなとぼんやり思った。触れた部分から伝わる熱に縋り付くように蹲る。


「デンジくん」


 返事はない。当たり前である。寝ているもの。


「デンジくん、ねえ、起きて」


 二度目で薄目を開けて、何、と眠そうな声がした。そっと頭を持ち上げて時計を見たら午前三時だった。三時に起こすには重すぎる用件だなと頭の片隅では理解しているけれど、どうしてもそのまま泊まれない。


「ねえ、デンジくんは私のものだよね?」


 デンジくんが、はあ、と息を吐いた。


「ど、こ、にも、行かない、よ、ね?」

「ああ……?」


 声が自分でも嫌になるほど震えている。震えていることに気付くと余計に震えて、その震えがわたしの中の何かを壊していく。


「ねえ、ねえデンジくん、どこにも行かないでね、ね、行かないよね」

「んだよ、急に、寝起きっから……」

「なんで、いかないって、言わないの、なんで、なんでなんでなんで」


 言いながら、デンジくんの腕にしがみついていた。爪を立てている自覚はあった。痛いかなあと一瞬冷静なものが横切ったけれど、すぐに別のもっと熱いものに上書きされてまともじゃ居られなくなる。なんで、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。デンジくんが私のものじゃないなんて、そんなの、そな。


「こ、こ、から出ていく、の?」

「だから、なに急に……」

「わたし、デンジくんが居なかったら、無理だから、殺すからっ、私以外の方みたら、ぜったいぜったいデンジくんのこと殺しちゃうから、あしきって、飼い殺しにしちゃうから」

「うええ」


 デンジくん薄目のまま、面倒くさそうに唸る。


「はいはい、分かった分かったから」


 慣れている声で適当に言って、それから手を気だるそうに持ち上げて、わたしの体をぎゅっと抱きしめる。捕まえるみたいに。やわらかなTシャツの布地に顔を埋められて、それからよしよし頭を撫でられて、まるで小さい子供としてあやされてるみたいに。


「飼い殺しでもなんでもいいけど、その前に寝てくれよ」

「寝れない」

「寝れなくても寝て」

「寝れない、寝たら、朝になったら、デンジくんがいないかもしれないから」

「居なくならねぇって。ここ出てどこ行くんだよ俺」

「わたしじゃないおんなのこのとこ……だって、だってっデンジくんモテるんだもんっ!!」

「マジ? 俺ってモテてんの? よっしゃ」

「うえ、うえええ゙っ……!」


 デンジくんが薄目のまま片方の口角を少しだけ上げて笑う、少しも笑い事じゃない、私はこんなに切実なのに。いよいよ本当に悲しくなってしゃくりあげながら号泣したら、流石に焦ったのか抱きしめる力を強められた。


「ああごめん、ごめんって、大丈夫、今んとこどこにも行く予定ないから」

「ひっ、ひっひっひっ、ひっ、じゃ、いか、いかない、いく、うくこと、あるの、っ」

「おー、アンタが俺に飽きて捨てられたら?」

「それはない!」


 わたしは、わたしはまだ全然落ち着いていなくて、心臓はうるさいままで、デンジくんの胸元にきつく立てた爪も外せていなかった。私を抱きしめるデンジくんの腕は太くて逞しくてもがいても外れなくて、たぶん明日の朝もこの人はここにいてくれるんだよねって、その一点だけを根拠にして目を閉じた。閉じても眠れる気はしなかった。


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