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 ふと目が覚めたのは、喉が乾いたからだった。

 隣ではデンジくんが大の字で爆睡している。同棲し始めて幾星霜、けれども未だにこの寝顔の愛おしさはエターナル。口が半開きで、ほっぺたにはよだれの痕。Tシャツから覗く鎖骨。いびきはかいていないけど、呼吸がやたらと深くて、レムもレム、とてつもなく深く寝てるのが見て分かる。

 数分の間二度寝をしようと努力して……結局、喉の乾きだけは睡魔では誤魔化せないと言う結論に至り、そーっとベッドを抜け出した。デンジくんは一度寝たら大抵のことでは起きない男の子なので、まあ別にそこまでそーっとする必要はないんだけど、一応は恋人の気遣いとして。

 キッチンに行って、冷蔵庫を開けて、浄水ポットを取り出す。冷たくって美味しい。なんやかんやでこの時期がいちばん空気が乾燥するから、寝てる間に喉がパサパサになるんだよね。


 ふう、と一息ついて、二口目を飲もうとしたとき。

 視界の端に何かが動いた。


 シンクの横。排水溝のあたり。黒くて、小さくて、つやつやした……。

「…………ぅ」

 冷蔵庫の明かりに照らされて、そいつはカサカサとシンクの縁を走っていた。

 ながぁく伸びた触角に、うじゃうじゃの脚。つやつやした背中。

 ゴキブリだ。

「わ——————っ!!!!!!!!!!」

 コップを落とした。コッ、とプラスチックの鈍い音がして水が床にぶちまけられたけれど、そんなことは今どうでもいい。

 裸足のままリビングを走り抜けて、寝室のドアを蹴り開けて、ベッドに飛び乗って、爆睡しているデンジくんの腹に拳を叩き込む。

「ぐぼっ」

「起きて!!!!」

「ぐぁっ、な、なに——」

「起きて起きて起きて起きて!!!!」

 腹。腹。胸。腹。とにかく手の届く場所を手当たり次第に殴った。デンジくんの腹筋は鉄板みたいに硬くて、殴ってる私の方が拳が痛いのだけど、そんなことを気にしている場合ではない。

「やっ、ばい、やばいやばいやばい!! キッチンにゴキブリ出た!! デンジくんどうにかしてどうにかしてどうにかしてどうにかして!!!!!!」

 そこまで叫んでようやく、デンジくんが目を開ける。……当然だけど、不機嫌の塊みたいな顔で。昼間、普通にしているデンジくん相手ではそうそう見れない顔だ。ちなみにこの顔を見るのはもう三回目、私は時々本気でデンジくんを怒らせるので。

「……は?」

「ゴキブリ!! キッチン!! 今すぐ!! お願い!!!!」

「…………」

 デンジくんは三秒くらい天井を見つめて、それから、ものすごくゆっくりとベッドから起き上がった。上半身だけ。

「……つか、今何時」

「え?……えっとねたしか二時半だけど、どうして?」

「……」

「それよりゴキブリゴキブリゴキブリだよ、どうにかしてよ!」

 デンジくんはめちゃくちゃ何かを言いたげに眉を顰めたけど、でも結局、文句を言わずに立ち上がった。寝ぼけた足取りでキッチンに向かう。私はその背中にしがみつくようにしてついていく。今この状態では、自分の足ではキッチンに入れない。無理。あそこに、あいつが、いるって、分かってるもん。

 デンジくんがキッチンの電気をつけた。「ひっ」「いちいちうるせぇよ」「だってぇ」うぜぇって思ってるのは分かるけどさ、少しくらい私に配慮してくれてもいいじゃんか。

 シンクの横。

 排水溝のあたり。

 さっきのやつが、まだいた。私たちに見られているのに気付いているんだかいないんだが、呑気にカサカサと触角を動かしている。

「ひいいいいいやああああ!!」

 デンジくんの背中に顔を押しつけて完全に隠れた。見たくない。見たくない。存在を認識したくない。

 一方デンジくんは呑気なもので、はあ、とため息をついて無感動にシンクを覗き込む。

「…………はあ〜?」

 そうして、呆れを超えて呆然に至ったような声が出た。

「一センチもねーガキのゴキブリじゃん。これくらい自分でどうにかしろよ!」

「むりむりむりむりむり!!! むちゃいうな馬鹿!!!」

 背中越しに叫ぶ。ほんと、馬鹿じゃないの。どうにか出来たらわざわざ呼んでないんだけど!

「デンジくん早くどうにかしてどうにかして!!」

「だから、こんなちっせえの——」

「お願いお願いお願い!! 死んじゃう!! 私ゴキブリ見たら死んじゃうの!!!」

「それくらいで人間が死んでたまるかよ……」

 デンジくんの背中から「マジでうぜぇ」という感情が物理的な温度として伝わってくる。顔は見えないけど、見なくても分かる。めっちゃイライラしてる今。間違いない。

 ティッシュを二枚取って、デンジくんがシンクに手を伸ばした。

 ぱちん。

 一瞬だった。さすが、チェンソーマンの動体視力と反射神経をもってすれば、こどもサイズのゴキブリ一匹など敵ではない。ティッシュごとぎゅっと握りつぶして、くるっと丸めて、ゴミ箱にぽいっ。

「おら、終わったぞ」

「……ほんと? ほんとにいない? 他にもいない? 近くに仲間とか潜んでない?」

「いねーよ。一匹だけだった」

「排水溝の中は?」

「そこまでは知らねぇ。見たいなら自分で見ればいいだろ」

「やだ!!」

 私があまりに悲痛な声で叫ぶので、やれやれといった様子のデンジくんがシンクの周りをざっと確認して、「いない」と言い切ってくれたので、ようやく背中から顔を離した。

「……ありがと〜! これでよく眠れます! 起こしちゃってごめんね、デンジくん」

 精一杯可愛い顔でにっこり笑って言ったけど、デンジくんは無言だった。

「ほんと助かったよ、今度私の奢りで美味しいご飯行こうね!」

 ……。やはり無言だ。

「焼肉とかどう? いいとこ行こうよ!」

 ……。

 …………。

 ………………。

 デンジくんが、腕を組んで、じっと私を睨んでいる。

 口が、への字だ。眉間にシワこそ寄せてないけど、じと〜〜……っとした目で、私を見てる。

 その顔面に、文字がでかでかと書いてあった。

 『お前だから許すけど、彼女じゃなかったらマジで一発ぶっ飛ばしてるからな』


 あっ、これ、あれだな。

 結構怒ってるな。


 ……いやまあ、うん、そうか。流石に深夜二時半に腹パンで叩き起されてゴキブリの処理させられたら、デンジくんでも怒るか。そりゃそうだ。デンジくんだって人間だ。眠い時は眠い。

 というか、今思い出したけど。……なんか、デンジくん、明日朝から予定があるって言ってたっけ。たしか七時集合。内容が何だったかはちょっと思い出せないけど……(それはそれでどうなんだ)。えっと、今は二時四十分。あと四時間ちょいしか寝られない。


 うん。あれだな。

 怒られて当然かも。


 どうしよう。ちょっと流石に酷いことした。ご機嫌取った方がいいかも。

 焼肉じゃだめだった。普段ならお高めの焼肉で大抵のわがままとかやんちゃは一発なのに、今のデンジくんにはマジのガチでミリも響いていない。それくらい、結構本気で怒っている。


 ちょっと考えた。

 考えて、考えて、三秒くらいで結論が出た。


「……えっちする?」

「する」


 即答だ。



 でもやっぱり顔は怒ってます、って感じの無表情のまんまで。

 ……というか、これ、あれだな。今回の一件だけが原因じゃ無いかもしれない。結構、私の知らないうちに、フラストレーション溜まってるなあ、これ。顔に出てる。目がぎらぎらしてる。そもそもここ最近忙しくてそういう時間が取れてなかったのもあるし、それに加えて今夜の理不尽な叩き起こしで苛立ちのゲージが一気にMAXになってる。つまり、えっと、えっと?

「お風呂は……」

「いい」

「ぅ」

 手を引っ張られたわ有無を言わさぬ力で。でも手首が痛くならない絶妙な力加減で。この辺の加減を心得ているのがデンジくんのいいところでもあり、怖いところでもある。痛い……痛みで気を紛らわせられたら、色々と楽な場面も、時にはあるってことを、私は知ったのである。

 リビングの電気を切って寝室に連行される。さっき私が蹴り飛ばしたドアがまだ開いたままで、ベッドのシーツはぐしゃぐしゃ。これもやっぱり私のせい。

「あの、デンジくん」

「なに」

「たしか、明日、七時から……」

「知ってる」

「ね、寝不足になる、よ」

「……はあ? 全部お前のせいだろ」

 それはまあ、正論すぎて何も言えない。

 寝室のドアが、ばたんと閉まった。








 布団の上にぶん投げられた。

 文字通り、ぶん投げられた。なんてことだ、おおよそ彼女に対する扱いじゃない。ぽよん、と体がバウンドする。マットレスのスプリングが軋んで枕が吹っ飛んだのが見える。

 視界がぐるんとしている間に、デンジくんが自分のTシャツを頭から引き抜いているのが見えた。多分数秒の間のこと。薄暗い寝室に鍛え上げられた上半身が晒される。腹筋の溝に落ちる影。鎖骨のえっちなライン。よくよく見ると、さっき私が殴りまくった辺りが微かに赤くなっている。……殴った痕だ。ごめんなさい。

「ほら、腕上げろ」

「は、はい」

 従順に両手を上げたら、パジャマのシャツを一気にめくり上げられた。髪の毛にボタンが引っかかって「いたっ」ってなったけどお構いなしに引っこ抜かれて、ぽいっと床に投げ捨てられた。雑だ。ものすごーく雑だ。いつもはこういうとき、かなり丁寧なのに。

「……おこってる、よね」

「怒ってる」

「ごめん……」

「別にいいぜ。今から体で返してもらうし」

「うー……!」

 それがいちばん怖い。

 デンジくんが本気で怒ってる時は、なんていうか、なんというべきか……端的に言うと、長い。ものすごく長い。普段はわりとストレートで普通のことしかしないのに、怒ってる時はこっちの反応を観察しながらねちねちねちねちしつこく攻めてくるから、終わった時には大抵、私はぐちゃぐちゃになってる。

 そのまま下もずるずる脱がされた。ショーツを引っ張られて、ぱちんとゴムが太腿に当たった。「いたっ」「いちいちリアクションでけーんだよ」「痛かったんだもん……」そういう大袈裟な性格なんだから仕方ない。

 全部脱がされて、ベッドの上に転がされる。同じく服を脱いだデンジくんが上から覗き込んでくる。暗闘の中で、きれいなタレ目がぎらぎら光っている。

 あ、これ、だめなやつだ。






┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




「ゔあ゙あ゙あ゙ー゙ー゙ーーっ♡♡♡!!!!??!?! ごめんなさいごめんなさいっ゙もうやだもうやだもうやだ反省しましたからもうやめてぐだざい゙♡♡♡♡!!!!!」


 シーツを両手で握りしめて、涙と鼻水をだらだら垂らしながら必死に叫んだ。声が裏返っている。というか、もう声なのかどうかも自分じゃ分からない。だってこれって人間の言葉っていうか、ただの鳴き声みたいな、そんな。

 でも、こんなに断末魔みたいな声が出てるのに、恐ろしい、ことに。

 恐ろしいことに、まだ挿入さえ、されていない。


 ぐちぐちぐちぐちぐちぐち。デンジくんの中指と薬指が、入口の上側のざらついた所を殴り続けている。私のいちばん弱いところにピッタリくっついて、さんじゅっぷん……くらい。たぶん、それくらい、もうずっと離れてない。

 ……正確には何分経ったのかなんて分からない。時計なんて見る余裕はない。ただ、とてつもなく長い、ってことだけは、わかる。もうずっと私の中のいちばん弱い場所を、ねちっこく、的確に、何度も何度も擦り上げられて。手の中で砂を揉むような、へんな、ぞりぞりとした動き。どれだけ腰を揺らして逃げようとしたって一ミリもずれない。ピンポイントで、何度も何度も。

「あ゙ーー♡♡♡♡!!!」

「大袈裟だよなあ、マジで。まだそんなイってねーだろ」

 大袈裟じゃない!今回に限ってだけは、絶対に私が大袈裟じゃない!

 だって、もう何回イったか分からない。五回か六回か、数える余裕がなくなってからさらに何回かイかされた。一回イくたびに、一応はってかんじで指を止めてくれるけど、体の震えが収まるか収まらないかのタイミングでまた動き始める。息を整えて回復する間がない。敏感になりきった内壁をまだ余韻の残っているうちに擦り上げられちゃうから、前回の快感の残りと新しい刺激が混ざり合って、脳みそがぐちゃぐちゃになる。

「ほら、もう一回」

「やぁっ、む、む゙り゙ぃっ゙♡♡♡!!」

 足をじたばたさせた。逃げようとした。でもデンジくんの空いている方の手が腰を押さえていてびくともしない。

 ずぷ、と指が深くなって、いちばんだめなところを、いちばん厭らしい触り方で、抉る。

「っ゙あ゙あ゙あ゙♡♡♡!!!!!」

 もうやだ、もうやだもうやだもうやだ!!!!!!

 背中が跳ねて涙がぼろぼろこぼれる。気持ちいいとか気持ちよくないとかじゃなくて、もう刺激が強すぎて泣くしかない。快楽が痛みに変わる手前の、ぎりぎりの一線を延々と歩かされている。

「〜〜〜〜〜゙♡♡!!!!!!」

 文字にもならないようなぐちゃぐちゃの声で謝った。謝ったというか、叫んだ。だってそもそも何に対して謝っているのかもう分からない。でも謝らずにはいられない。

「っはは、何に謝ってんだよ、なあ」

 デンジくんの声は、怖いくらい平坦で。怒鳴っていない。声を荒げてもいない。それが余計に、怖い。だって、どうしたらいいか分かんなくなるから。何を考えてるのかわかんないから、こわい。

「よながっ、夜中なのにおごじでごめんなざい゙♡♡♡!!!」

「別にそれには怒ってねえって。アンタがマジで虫無理なの知ってるし」

「なぐっでごめんなざい゙ッ゙♡゙♡゙♡!!!! 馬鹿ってゆってごめんなざい゙ぃ゙ッ゙!!」

 手当り次第に思いつくことを並べた。腹を殴ったこと。馬鹿って叫んだこと。寝てるところを起こしたこと。全部全部全部ごめんなさい。

「むりやりッ゙あああ゙もうそこやだやだやだあ゙♡♡♡!!!!」

 なのに、あやまってるのに、ごめんなさいって言ってるのに、指が速くなった。弱い場所だけを正確に、的確に、これでもかというくらい擦り上げてくる。

「手当り次第謝られても響かねぇよ。馬鹿じゃねぇの」

 鼻で笑いながら——今度は外側の突起を、親指で押し上げられた。

「あ゙〜〜〜〜〜〜〜゙♡♡♡♡♡!!!!!!、!!!! もう許しでぐだざいッ゙ごめんなざいごめんなざいごめんなざい゙♡♡♡!!!!」

「おー、すげー声。必死だな、許さねぇけど」

 駄目だ。何を言っても駄目だ。

 頭では意味がないって分かっていても、辛くて辛くて辛くて、懇願せずにはいられない。言葉を並べることでしか自分を保てない。黙ったら壊れる。全部持っていかれる。

「ぅえ゙ッ゙、ゔゔゔ〜〜♡♡♡!!!」

 本気で泣いた。声を上げて、しゃくりあげて、みっともなく顔をくしゃくしゃにして泣いた。

 ——そうして。そのとき初めて、すっ、と指が抜かれた。

「…………あ、あっ♡♡?? はひっ、はひぃっ……♡♡」

 あ。おわった。いったん、終わった。

 全身から力が抜ける。糸を切られた操り人形みたいに、ベッドの上にべしゃっと崩れる。我ながら呼吸がとてつもなく荒い。肩が上下している。太腿の内側がびくびく痙攣してとまらない。

「ふっ、ふっ……ううううぅ゙〜〜……♡♡」

 枕に顔を押しつけて、残りの嗚咽を吐き出す。涙で枕がべちゃべちゃだ。鼻水もすごいことになっている。ティッシュが欲しい。でも手が震えて、腕を持ち上げる気力がない。

「……なあ。反省したか?」

 頭の上から、デンジくんの声が降ってきた。

「した、した、したっしたっした、しましたっ、したぁっ……♡♡♡」

 ぐちゃぐちゃの顔を上げて必死に唱えた。した、反省した、しましたから、どうかどうか許しでてください。きっと、頬が涙でてかてかしていて、目は腫れていて、鼻は赤くて、世界でいちばんひどい顔をしている自信がある。

「よしよし」

「ふ……♡♡」

 その答えが気に入ったのか気に入らなかったのかは、分からない。

 でもその時、デンジくんの手が、私の頭を撫でた。さっきまで中をかき回していた手と同じ手。でも今は、穏やかに、ゆっくりと、髪の毛を梳くように撫でてくれている。

 それから、顔を近づけてきて——唇を重ねてくれた。

「ふ、ぅう…………♡」

「ん……」

 柔らかいちゅー。さっきまでの悪魔みたいな指使いとは真逆の、溶けるような口づけ。涙の塩味がしてしょっぱい。鼻水のせいで呼吸が詰まりそうだったけど、デンジくんは気にしていないみたいだった。

 とろんと蕩けきった頭で、必死にデンジくんの唇に吸いつく。ちゅ、ちゅっ、と小さな音を立てて、離れそうになったら追いかけて、もう一回くっつく。甘えるのが気持ちいい。必死に謝ったから許して貰えたのかな?そうだといいな、そうじゃなかったら困る。わたし、ころされちゃう。


 ずり。


 そんなことを考えている間に、下腹部に硬いものが触れた。

 入口に、ずり、ずり、と擦り付けられている。それが元気になったデンジくん自身だって気がつくのに、そんなに時間はかからなかった。

「……っ」

 うう、また。

 たぶん、どうやっても、辛い、ってなる。あれだけぐちゃぐちゃにされた後なのに、まだ続くのか——とは思うけど、でも。

 セックスだったら、明確に終わりがあるから、まだいいやとも思った。指でいじられ続けるのには終わりが見えないけど、セックスには終わりがある。デンジくんが射精したら終わり。ゴールがある。ゴールが見えているだけで、気持ちの持ちようが全然違う。

「ん。ほら」

 差し出されたデンジくんのおててを、ぎゅう、と握った。挿入する時には、いつもそうしてる。一番最初の時に私が「怖いから手を繋いで」って言ってから、今日までずっとそう。

「……んっ」

 入ってくる。

 ゆっくりと、でも確実に、奥まで。さっきまでの指とは比べ物にならない熱さと太さが、敏感になりきった内壁を押し広げていく。

「ぅ、うぅ゙……うううううう♡♡」

 辛いのは、つらい。気持ちよすぎて、確かに辛い。あれだけイかされた後の体に、これは刺激が強すぎるから。

 でも。指で的確に弱いところだけをえぐられていた時よりは、本当に気持ち程度だけどまし。指は一点集中だったけど、こっちは中全体に圧がかかるから、刺激が分散される。それに、なんだか——

「あ、あ……♡」

 優しい。

 怒ってるはずなのに。あれだけねちっこく指で責め立てておいて、挿入はやけに甘い。ゆっくり、ゆっくり、奥をぐりぐりと押すような、優しいピストンだ。腰を叩きつけてくるような荒っぽさが一切ない。

 甘い声が漏れた。こんな状況とは思えないくらい、甘ったるい声。

 ちょっとだけ深呼吸する余裕が出てきた。さっきまでは呼吸すること自体を忘れていたのに、今は息が吸える。吐ける。体の中にデンジくんがいるのに、パニックにならずにいられる。

 奥をゆさゆさと揺さぶられながら、でも……ふと、妙な違和感に気づく。


 あんなに怒ってたのに、どうしてこんなに優しいんだろう。


 さっきの指とのギャップが激しすぎる。あの悪夢のような時間は何だったんだ。今のデンジくんは、まるで壊れ物を扱うみたいに丁寧に動いている。

 いや、待って。という、か。

 この動き、だと。甘すぎて、いつまで経ってもデンジくんがイけない、んじゃないの。

 普段のデンジくんは、途中からテンポが上がって、最後は我慢できなくなって一気に、ってかんじで。でも今夜は、ずっと同じペース。じわじわと、低い火力で、煮込むように。まるで、そもそも終わらせるつもりがないみたいな。

「あ、の……」

 恐る恐る、デンジくんの顔を見上げた。

 バッチリ目が合った。

 かわいいタレ目が、暗闘の中でじっとこっちを見下ろしている。怒っている顔でも、ぜんぜん……気持ちよさそうな顔でもない。冷静に、私の反応を観察している顔。

「四時間ってさあ、半端だよな」

「ぇ……あ、ぅ、うん」

「睡眠時間にしては短いし、起きて何にもしないまんま耐えるには長いし」

「あ、あの、デンジく——」

「……四時間、きっちり耐えろよ」

 む、むり、むり。答えようとするのに声が出ない。奥をぐりぐりぐりぐり、って、子宮の入り口を、先端でこねるように押し回されてるから。上手く言葉がまとまらない。

「ひ、ぁっ……♡」

 お腹の奥が、じんわりと溶ける。熱い。怖い。気持ちいい。気持ちよすぎて、背筋に冷や汗が伝う。

「は、は、ぁ、これ、やだ……やなやつ……」

 知っている。

 この感覚を、知っている。前にされたことがある。あの時は、ものすごく時間がかかって、ものすごく深いところから、ぐちゃぐちゃに崩された。頭の中が真っ白になって、自分が自分じゃなくなるみたいな、あの、怖い、やつ。いっかいやって、もう怖いから二度とやりたくないって泣きながらおねがいして、それからもう、ずっとやってやかったやつ。

 思い出した瞬間、全身に鳥肌が立った。

「こ、これ、やだ」

「はあ?」

「や、やなやつなの、これ……」

 デンジくんが鼻で笑った。あのさあ、って。半笑いのまま嘲る。

「なんでお前が嫌とか言える立場だと思ってんだよ。俺まだ全然怒ってるんだけど」

 血の気が引いた。本気で、ひゅっ、って体温が下がった。

 まだ怒ってる。って。反省したかって聞いて、よしよしって撫でてくれて、あんな、やさしいキスしてくれたのに。

 じゃあ、じゃあ、あれ、まえふり? ぜんぶ……ぜんぶ。

「ご、ごめ……」

「そればっかだなマジで。だから、別に謝らなくていいって言ってんだろ」

 デンジくんの手のひらが私のお腹の上に置かれた。下腹部。おへその下あたり。掌底で、ぐに、と押される。

「あっ、あ、まって、それ、やだ、やなの」

 上から押されて、中のものが子宮にぴったり密着する。逃げ場がどこにもなくなる。ぐりぐりぐり。押し回すたびに、お腹の上からの圧と中からの圧に挟まれて、いちばん奥の、いちばん柔らかい場所が溶かされていく。

「ひっ、ひっ、ひっ、やだ、やだ、やだやだやだ……♡♡♡」

 やだって言ってるのに体が逃げない。押さえつけられてて逃げられない。ぐに。ぐに。ぐに。やだ、やだ、やだ。

 ボロボロ泣いて、精一杯の可愛い顔でデンジくんを見上げた。眉尻を下げて、上目遣いで、目をきゅるん、ってして。

  この顔、好きでしょ。

 ツラが良いから許すって、いっつも、これで、見逃してくれる、よね。許してくれるよね。


 でも今日は、鼻で笑われただけだった。


 お腹の上から押されるたびに、子宮が揺さぶられる。内臓の奥がじわじわと熱くなっていく。お風呂に浸かった時みたいな——でもそれよりずっと深くて、ずっと重い熱。体の芯が、ゆっくりゆっくり、溶けていく。

「あ、あ、あぁっ、♡♡」

 声が変わった。自分でも聞いたことのない声。お腹の底から絞り出されるような、ひしゃげた声。

「……効いてんなあ。流石、あれだけマジで泣いて嫌がってただけはあるか。本気で嫌なんだなこれ」

「やめっ……やめ、てっ……♡♡♡」

 分かってるならやめて、いじめないで、いじわるしないで。必死にそうお願いするけど、片っ端から無視される。

 指の時とは全然違う。指はピンポイントで鋭かったけど、これは面で、奥で、じわじわと。逃げ場がない。イく、とかイかない、とかの問題じゃなくて、もっと根本的な何かが崩されていく感覚。

「ね、ねえ、デンジくっ、まっ……♡♡♡」

 デンジくんの空いてる方の手を握った。ぎゅう、と。指が白くなるくらい強く。

 デンジくんは握り返してくれた。でも、腰は止まらない。お腹の上の手も動き続けている。体中がびくびく震えている。足の指が勝手に丸まる。太腿が痙攣する。気持ちよすぎて怖い。体の奥の、自分でも触ったことのない場所が開いていく感覚が怖い。このまま行ったら、何かが……取り返しのつかない何かが、壊れる気がする。

「大丈夫だって」

 デンジくんの声がした。

 低くて、落ち着いていて、あったかい声。わたしのすきな、デンジくんの声。やさしいやさしい彼氏の声。

「うっかり壊すほど下手じゃねぇから。まあ、精々トラウマ残るくらいじゃねぇの」

 それって、ぜんぜん、マシじゃない。

 お腹の上の手が、ぐに、から、さすさす、に変わる。

 撫でるように。落ち着かせるように。でも中の動きは止めないまま、ゆっくり、ゆっくり、奥を押し続ける。

「あ、あ、あぁぁ……♡♡」

 ぼろぼろ生理的な涙があふれる。知ってる、知ってる、この、怖い感覚。やだ、やだ。イく、というのとも違う。もっとゆっくりで、もっと深くて、波が来るみたいにじわぁっと全身に広がっていく。指先まで。つま先まで。頭のてっぺんまで。ぜんぶがあったかくなって、ぜんぶが溶けて、自分の体の輪郭が分からなくなる。

「いいこ、いいこ。上手だなー、イくのだけは。虫も殺せねぇくせに」

「う、うぅ〜〜……♡♡♡」

 声にならなかった。口は開いているのに、音が出ない。息が吸えない。目の前が真っ白で。

 ぐっ。

 ふいにデンジくんが私のお腹に体重をかける。今までよりもずっと強く。「あえ……」なんだろう、って反射的に顔を上げたら、デンジくんが私の腰の位置を変えて──



 ごちゅん。


 何かが、体の中の、今まで一度も触れられたことのない場所を、突き破った。

 いや、突き破った、というのは語弊があるのかもしれない。でも感覚としてはそう。奥の奥の、一枚の壁の向こう側に、デンジくんの先端がずるりと滑り込む。掌底でお腹の上から体重をかけられて、子宮が逃げられない状態のまま、カリが引っかかるように、にして──

 入っ、た。

「ほへッ゙」

 間抜けな声が出た。

 自分で出した声だとは思えなかった。これまで生きてきた中で一度も出したことのない、人間の声とは思えないような音。目が白黒する。何が起きたのか処理が追いつかない。頭の中でアラートが何十個も同時に鳴っている。

 デンジくんが私の反応を見ている。。

 見つめている、というよりは、観察していた。私の顔が、どう歪むか。どんな声が出るか。目がどう泳ぐか。全部見ている。


 ごちゅ。


 軽く、浅く、ピストンされた。


「ぁ、え——ぇ??」


 ごちゅ。ごちゅ。

 中の……子宮の内側を、カリの部分でなぞるみたいに。浅いストロークでゆっくり、とん、とん、って。

「よし、よし……大人しくしてろよ。下手に動いたら変な場所抉るかもしんねぇし」

 へたに、って、もう、へたなばしょに、はいってる、じゃん。

 足がガクガクした。

 比喩じゃなく、物理的に、膝から下がガクガクと痙攣して止まらない。太腿も震えている。腰も。お腹も。体の中心から外側に向かって、振動が伝播していくみたいに、ぜんぶが震えている。

「ぅ、う♡♡♡???????」

 冷や汗が滲んで止まらない。

 今まで感じたことのない種類の汗が、背中と額と手のひらから一気に噴き出している。体温が上がっているのか下がっているのかさえ分からない。歯がガチガチ鳴っている。寒いんじゃない。怖いのとも違う。体が、この感覚をどう処理していいのか分からなくてパニックを起こしている。


 ごん。

 内側から、子宮を下に引っ張られるような動き。

 これまでの人生で、一回も味わったことの無いような、脳みそを直にかき混ぜられてるみたいなきもちよさ。

「——————っ♡♡♡♡♡!!!!!!!!!」

 膣壁を擦られる気持ちよさとか、クリトリスを触られる気持ちよさとか、そういうのとは次元が違う。もっと奥。脊髄を通って、脳幹を通って、意識の根っこを握りつぶされるような。暴力的で、理不尽で、頭がおかしくなるレベルの快楽が、ごん、と一発来るたびに白い閃光みたいに全身を貫く。

 喘ぎ声さえ出なかった。

 口は開いている。動いてもいる。でも音が出ない。声帯が機能していない。涙だけがぼろぼろとこぼれている。

「ぁ、あ、ぁ……ぅ…………♡♡♡♡♡???ううう、うう……♡♡♡♡♡♡」

「はは。訳分かんねーって顔してる」

 デンジくんが笑った。嬉しそうに。少年みたいに、無邪気に。

「やってみたかったんだよなーこれ。とはいえ、一生やることねーだろうなって思ってたけど……ちょうど良かったわ、うん」

 ちょうど良かった、って。なに、なんで。どういういみ。なにがちょうどいいの。

 考える余裕なんてなかった。だって。

 ぐりぃ。

 奥の、中の、内側を。ゆっくりと、回すように。

「っっっっっっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!!!!!!」

 また、訳の分からない重さのやつがきた。全身が弓なりに反って、目の前が真っ白に弾けて、意識がぐにゃぐにゃ〜って、歪む。わかんないわかんないもうわけわかんない、イったのか何なのか自分でも分からない。ただ体が勝手に反応して、中がぎゅうぅぅっと締まって、デンジくんをぎゅーってして、頭がぐちゃぐちゃになって。

「は……きっつ。締めすぎだって」

 デンジくんが低く呻いた。でも止まらない。止めない。痛いくらいにぎゅうぎゅう締め付けている中をものともせずに、ごちゅ、ごちゅ、と子宮の内側をかき回し続ける。

「あ、あ、ぁ……♡♡♡ こぇ、こえ、どうなってぅ、のっ……♡♡♡」

 ボロボロこぼれる涙の合間に、どうにか、声が出た。掠れた、震える、かろうじて言語の形を保っている声で。

「子宮直に犯してんの」

 あっさりとデンジくんは言った。別段大したことでもないみたいに。

「あんだけポルチオ弱かったらすげー効くだろ、これ。どうよ、気持ちいい?」

「ふ、ぅ……♡♡♡???」

 気持ちいい、の? これが?

 気持ちいい、という言葉の範疇に、これが入るの? もっとこう、こわいとか、やばいとか、しぬとか、そういう言葉の方がしっくりくる気がする。でも確かに体は受け入れている。どろっどろの、単純に愛液とはあからさまに粘度の違う液体が、私たちの下半身をべったり汚してる。

「アンタのことすげー可愛いと思ってるし、可哀想なことしたくねぇと思って今まで散々甘やかしてきたんだけどさあ」

 デンジくんの声が遠くから聞こえるみたいだった。水の中にいるみたいに、輪郭がぼやけている。

「今回の一件で調子乗らせすぎたらろくな事になんねぇって反省したわ」

 ちょっと待って。反省って。反省するのは私の方で——

「だからこっからは飴と鞭、な」

 言い終わると同時に、デンジくんの手のひらが子宮口の辺りに掌底でぐっと体重をかけた。お腹の上から子宮を押さえつけられた状態で、ずるる。子宮の中からデンジくんが引き抜かれる。

「ふゔゔゔ♡♡♡!!?!?」

 思いっきり仰け反った。背骨が折れるかと思った。中に入ってきた時とは逆の感覚だ。内側の粘膜がカリに引っかかりながら、ずるずるずると引きずり出される。いちばん出張った部分が子宮口を通過する瞬間に、ぞくん、と脊椎を電流が駆け抜けた。

「はっ、はっ、はっ……♡♡♡!!!!!」

 抜けた。出た。震えが止まらない。呼吸を整えようと必死に息を吸うけど、横隔膜が痙攣していて上手く吸えない。肺が動いてくれない。手足がびりびり痺れている。

 必死に息を整えようとしている、その最中に。


 ごちゅ。


「ぁ——っっっ♡♡♡!!!!」


 今度は甘やかすような動きじゃなかった。

 がちん、と腰を打ちつけられた。子宮の中に、もう一度、容赦なく。

 ごちゅんごちゅんごちゅん。ガチのピストンだ。遠慮しない時のやつ。さっきまでの実験的な優しい動きは何処へ行ったのか、腰を掴まれて固定されて、真正面から叩きつけられる。子宮の内壁がめちゃくちゃにかき回される。

「あ゙、あ゙、い゙まそれむり゙ぃ゙ぃ゙♡♡♡♡♡♡!!!!!」

 喘ぎ声が惚けた声から叫びに変わる。無理。本当に無理。さっき一回意識が飛びかけたばかりなのに、回復する暇もなく同じ場所をもっと激しく叩かれている。全身がびくんびくんと跳ねる。自分の意志で体を制御できない。

「おー。気持ちよかったなー。んじゃもう一回」

「あ゙あ゙あ゙♡♡♡♡♡やめてやめでっやめで♡♡♡♡♡!!!!」

 叫んだ。本気で叫んだ。もうやだ。もう無理。許して。死ぬ。

 でもそれを知ってか知らずか、デンジくんは止まらない。一度引き抜いて子宮口を通過する瞬間にまたぞくんと全身が痙攣して、それから、もう一度入口に先端を当てる。

「ほら、力抜いて。入れらんねーだろ」

「むりむり゙む゙り゙やめでっ゙やだ♡♡♡♡♡!!!!」

「いいから黙って犯されてろよ」

 ごちゅんっ♡

 カリ首が子宮口をこじ開けて、捩じ込まれる。また。三回目。

「〜〜〜〜〜〜〜っっっっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!!!」

 何かが壊れた音がした。比喩じゃなく、頭の中でぱきん、と何かが弾けた。視界が白くなって、音が消えて、体中の感覚が一斉に遠のいて──

 ぶつん。


 …………ばちん!!

「ほ、へっ゙♡♡♡???」

 意識が、叩き起こされた。

 文字通りに、思いっきり頬にビンタされたのだ。

「誰が寝ていいっつったんだよ、あ?」

 というデンジくんの声が鳴って、ぼやけた視界が急速に形を取り戻す。

 戻ってきた瞬間に理解した。まだ中にいる。まだ子宮の中に入ったまま。それで……動いている。ガンガンガン、と、さっきまでとは明らかに違うリズムで。速くて、深くて、重い。これは。


 射精の前の動きだ。


 知っている。普段のセックスでもこうなる。最後の最後、我慢の限界が来た時のデンジくんは、理性のタガが外れて、本能だけで腰を振るから。

「あ゙ー……なんか、あれだな」

 デンジくんの声がした。息が荒い。いつもの余裕のある声じゃない。低くて、かすれていて、ちょっとえっちな声。

「はは……体格差あるからか知らねーけど、子宮が全部すげーぴっちり先端に吸い付いてきて……なんか、はは、すげー……かわいー。俺の事大好きじゃん」

「ふ、あ? あ、あ゙……♡♡」

 かわいい。この状況で、その言葉が出てくるのか。理解不能だ。頭がぐるぐるする。

「アンタはそれどころじゃねぇか、うん」

 ほんとにそれどころじゃない。全然それどころじゃない。

 子宮の中を、射精のためだけの都合のいい動きで犯されている。奥の粘膜がカリに引っかかるたびに、脳天まで突き抜ける快楽が来る。もう痛いのか気持ちいいのか区別がつかない。全部混ざって、ぐちゃぐちゃの塊になって、涙と一緒に溢れ出ている。

 ずる、とまた引き抜かれた。

「お゙っ゙♡♡♡♡♡」

 お腹の上から子宮を揉まれた。掌底でぐにぐに〜って。空っぽになった子宮が外側から圧迫される。おかしな感覚。中に何もないのに、さっきまでの残響みたいな快楽が子宮の壁からじわじわと滲み出してくる。「そのうち、セックスしてなくてもコレだけでイけるようにしような」そんなエロ漫画みたいなことあるわけないだろって思うのに、有り得なくもないって思わされる。

「あ、あ、は……♡♡♡」

 ごちゅん、また中にねじ込まれた。まだまだまだまだまだ終わらない。入れたり、抜いたり。入れたまんまお腹の上から子宮を揉んだり。デンジくんの好きなように、好きなタイミングで、好きなだけ。私の子宮が、射精のための……ああ、あれだ。オナホール。ほんとうに、それみたいに、雑に、効率的に、使われている。そうしていいって思われてる。

 重すぎる快楽に意識が飛ぶ。

 飛ぶたびに、クリトリスをきゅっとつねられて起こされる。

「んあ゙っ♡♡♡!!!!」

「寝るなっつってんだろだから。マジで人の言うこと聞かねぇな」

 私だって寝たくて寝てる訳じゃない!

 そう叫びたいのに、突起をぐりぐりぐりって親指ですり潰されるから、全部の声が喘ぎ声と悲鳴に変換されて、なんにも言葉が出ない。突起をすり潰されて、弾かれて、また別種のオーガズムが来る。子宮の中からの鈍くて重い快楽と、クリトリスからの鋭くて浅い快楽が同時に襲いかかってきて、二重に、三重に、体がぐしゃぐしゃに崩される。


「……っ、あ゙ー、やべー……おれも、そろそろ」

 そのうちに、デンジくんの声が変わった。

 息が浅くなっている。腰の動きが一段と速くなった。ガンガンガン。子宮の中を滅茶苦茶に突かれている。でも、もう痛くない。痛みと快楽の区別がなくなった。全部同じだ。全部気持ちいい。全部怖い。全部デンジくん。

「なか、なか、だめ、ごむ、ごむしてない」

「だからなんだよ。抜く理由ねぇし」

 最後の最後まで容赦がない。

 デンジくんの手が、私の手を探した。指が絡まる。恋人繋ぎ。さっきからずっと握っていたはずなのに、いつの間にか離れていた。また繋がった。ぎゅう、と。

 この手だけは、ずっと優しい。

「っ、ふーー……」

 デンジくんの体が強張った。腰が深く、一番奥にまで押し込まれて、止まった。

「……♡♡♡」

 じゅく、じゅく。中でデンジくんが脈打ってるのがわかる。内壁とか奥とか、天井とか、もう全部あつい。頭がぎゅーーってする。

 今夜いちばん深いやつ。体の芯が爆発するみたいに、全身が痙攣して、声にならない悲鳴が喉から漏れて、繋いだ手だけをぎゅうぎゅうに握りしめて。

 まっしろだ。意識も、なにもかも、ぜんぶまっしろ。





「…………」


 どれくらい経ったか分からない。

 気がついたら、デンジくんの腕の中にいた。横向きで抱きしめられている。諸々の処理はどうなったんだろうって思ったけど、わりとそのままで放置されていたらしく、太ももの内側がべたべたする。

「……い、きて、る?」

「生きてる」

 声が掠れて、ほとんど音にならなかった。

 デンジくんが、私の髪を撫でている。ゆっくりと。優しく。あの悪夢みたいなセックスをしていた人間と同じ手とは思えないくらい穏やかだ。

「……おこってる、まだ?」

「んー」

 デンジくんが少し考えるような間を置いた。

「すっきりしたし、七割くらい許した」

「のこり三割は……」

「焼肉で手打ち」

「……ぅ」

「あと、明日から1週間は毎晩したい」

「……そ、そ、それは」

「別に今日みたいなことしねぇって。普通に、普通のエッチするだけ」

 ……それくらいなら、まあ、安いものだ。

「……はい」

 全面降伏だった。

 デンジくんの胸に顔を埋めて、ぎゅっとしがみつく。心臓の音が聞こえる。少しだけ速い。まだ余韻が残っているのかもしれない。

「……ねえ、デンジくん」

「ん」

「いいこに……いいこにする、から、もう、おなかのやつ、やらないで」

「えー。気持ちよかったくせに」

「あれ、こわい、こわいの、ほんとにやなの」

「はいはい」

 じいっとデンジくんの顔を見上げた。いつものぶりっ子顔。さっきは鼻で笑ってガン無視されただけだったけど……今度は少し効いたみたいで、気まずそうに目を逸らされる。

「……まあ、アンタがいい子にしてたらやんねーよ、多分」

「……それ、時と場合によってはいい子にしててもやるってふうに聞こえるんだけど」

「さあな」

 ぜったいもう怒らせないようにしよう。

 ゴキブリ対策、明日じゃなくて今日のうちに買いに行こう。開店と同時に。命がかかっている。あとはわがまま言うのもちょっとは控えよう。声がうるさいのとかも、ちょっと、うん、直す練習する。

「……ねむい」

「寝ろよ。もう六時だぞ」

「デンジくん、七時から……」

「今更だろ。全部お前のせい。俺はこのあとシャワー浴びて諸々の用意するから、一人で寝てて」

「……うー。さみしい……」

「自業自得だろ」

 それはまあ、正論なんだけど。

 体中がじんじんする。特にお腹の奥。子宮が、まだ余韻でひくひくしている。明日というか、明日的な今日は、たぶんまともに歩けないだろうな。

 起き上がってお風呂場に向かおうとするデンジくんの手を取って、自分の頭を撫でさせた。ぽんぽん。デンジくん、こういうあざといことされるの好きだから。

「……はは、かわい」

 甘やかすようにキスされて、なんだか頭がふわふわしてくる。


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