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 元はと言えば完全に私の失態だった。

 酔った勢いで、よせばいいのにアキくんに「デンジくんのことが好きすぎて死にそう、助けて性犯罪者になりたくない」と泣きながら電話をしたのが運の尽き。

 翌日には4課中の人間に知れ渡っていた。アキくんが口を滑らせたのか、同棲しているパワーちゃんあたりにでもうっかり声を聞かれたのか、どっちにしろ、原因がアキくんなのは確定なのでそのうち殺す。(理不尽の極みとはまさにこのこと!)

 ちなみにアキくんは、「まあ、あいつ人権ないし大丈夫なんじゃないか。さっさとマキマさんのこと諦めさせてお前が引き取れば、他の話も早いだろ」と言っていた。……意外と適当だよなあいつ。

 そして、当のデンジくんはと言えば。

「……マジ? 副隊長って俺のこと好きなの?」

 まっすぐな目で聞かれて、もう誤魔化す気力もなくて。

「……すきだよ。もう本当に、大好きで、大好き」

 やけくそで答えたら、デンジくんはしばらく固まって、それから耳まで真っ赤にして「あ、そ、そう……」とだけ言ってた。


 で。


 問題はそこからだ。

 好きバレ以降のデンジくんは……私を、完全に面白いおもちゃとして認識し始めた。本気で、毎日毎日好意を盾にやりたい放題している、と言っていい。

 殴っても……いや、別に殴られたことはないんだけど、それくらいの事をしても怒らないおもちゃだと思われている。


 仕事中にいきなり後ろから抱きついてきて「へへ、俺の事好きな人がここに居まーす」と言い出したり(やめろ)、書類を持ってきた私の手を取って「俺の事好きな副隊長の手だ。手からも俺のことが好き〜って滲んでる」と意味不明なことを言ったり(マジでやめろ)、コベニちゃんの前で「なあチビ女、副隊長って俺のこと好きらしいぜ」と吹聴したり(コベニちゃんは「ひゃっ」と言って逃げた)。


 私が赤くなって黙り込むたびに、デンジくんは実に楽しそうに笑う。

 ああもう。

 大好きだって、あの時バカ正直に言わなきゃよかった。






 そうして私の家。いつも仕事終わりにつけている授業の時間。

 ローテーブルに国語の教科書が開いてある。デンジくんはそこそこ真面目に漢字ドリルに取り組んでいて、私はその隣で赤ペンを持って丸つけをしている。

 今日は割合静かだ。さっきから三十分くらいちゃんと集中して書いている。偉い。やればできるじゃん。こういう日もあるんだなあと思いながら、安心して丸つけに集中していると、背中にあったかいものが当たった。

「……」

 デンジくんが、後ろから抱きついていたのだ。

 おい、今心の中で感心したばっかりだぞ。こんのエロガキはよ~~~!でもそんなところも好き♡

「ん~……」

「ちょっと、デンジくん」

「んんん」

 教科書の横から手を回して、私のお腹のあたりで腕を組んでいる。背中にデンジくんの胸板が密着している。あったかい。首筋に、彼の犬みたいに生暖かい呼吸がかかる。

「もう、こら。勉強中でしょ」

「もー疲れた」

「さっき十分やったら休憩にするって言ったじゃん。あと五分」

「むり、限界、五分も待てねぇ」

 そう言って、ぎゅう、と腕に力が入る。逃がさないとでも言いたげに背中から抱きしめられている。デンジくんの体温が薄いシャツ一枚越しに伝わってくるのが、なんともまあむずがゆい。心臓の鼓動を背中で感じる。とくとくとく。規則正しい。あと、ちょっぴり早くて、緊張してるのかなって思うと、無性にかわいい。

「デンジくん」

「なに」

「百歩譲ってさぼるのはいいとしても、くっつくのはめ、だよ。離して。授業中です」

「離さない」

「離しなさい」

「やだ。副隊長、いい匂いする」

 首筋に鼻先を押しつけられた。すん、と嗅がれる。やめて。今日はいつもの柔軟剤の匂いしかしないはずだけど、それでもこうされると──

「……っ」

 好きだとバレてから、こういう時に冷静でいられなくなった。そもそもそれまでデンジくんはこんな無茶苦茶に馴れ馴れしいスキンシップはしてこなかったし、もしして来たとしても、「はいはいエロガキのスキンシップね」で顔に一発裏拳を入れるくらいは出来たはずだ。

 なのに今は自分の気持ちを自覚してしまっているから、そしてそれがバレてるって分かってるから、ちょっと触れられるだけで心臓が暴れるし、全然、デンジくんに対して強く出られない。

 そして、タチの悪いことに、本当に本当に最悪なことに、それを、デンジくんは完全に把握している。

「フクタイチョ~。んなこと言っても耳真っ赤だぜ」

「うるさい」

「かわいー」

「っ、うるさいってば!」

 赤ペンを置いてデンジくんの腕を引き剥がそうとした。でも力が入らない。入らないっていうか入れられない。

 だって、だって本当は離してほしくないから。

 好きな人に後ろから抱きしめられて、いい匂いするって言われて、かわいいって言われて。それが嫌なわけないじゃないか。嬉しくて、嬉しくて、だから力が入らない。馬鹿か私は、いい歳こいて、乙女かよ。

 デンジくんは、やっぱりそれを知っている。

「……な、副隊長」

「……なに」

「好き?」

「……っ」

「俺のこと、好き?」

 ああもう、挙句の果てにはこれだ!!

 これが一番ずるい。

 好きだって知ってるくせに聞いてくる。聞いて、私が赤くなるのを楽しんでいる。

「……好き、だよ。知ってるくせに」

「もっかい」

「大好きだよ……」

「んへへへへ……」

 嬉しそうに笑う声が耳のすぐ後ろでした。

 それから——デンジくんの手が、お腹の上から、少しだけ下に動いた。

「……ちょ」

「んー?」

「デンジくん、手」

「手がどうした?」

「なんか、下がってる」

「気のせいだろ」

 気のせいじゃない。明らかにおへその下あたりまで来ている。指先が、シャツの裾に触れている。

「……こら、やめなさい」

「やめない」

「授業中だってば」

「さっき疲れたって言った。休憩」

「休憩の方法がおかしい!」

 デンジくんの指がシャツの裾の隙間から、するりと入り込んだ。お腹の素肌にあったかくてごつごつした指先が触れる。

「ひっ」

「お、いい声」

「よくない……」

「肌すべすべ。いつも何塗ってんの」

「しらないっ……」

「知らねーことねーだろ」

 指がお腹の上をゆっくりと滑る。おへその周りを撫でるようにくるくる~って。もう、どこで覚えてくるんだこんなの! お前、他で童貞じゃねーのかよ! くすぐったいのと、気持ちいいのと、恥ずかしいので、体がもじもじする。

「デンジくん、だめ……勉強……」

「んじゃ後三分。三分触るだけだから」

「さ、三分で、何するきなの……」

 聞いた瞬間に後悔した。なぜなら、デンジくんの手が、お腹から、さらに下に降りていったから。

「ちょっ、待っ、だめ……!」

 スラックスのボタンの上を、指先がつつ、となぞる。

「……なあ、副隊長」

「な、なに」

「俺に触られんのって、嫌?」

「……っ」

 ずるい。

 ずるいずるいずるい。そんな聞き方、ずるい。

「……嫌じゃ、ない……けど」

「じゃ、いいじゃん」

 ボタンが、外された。チャックを降ろされて、下着の上から指が触れた瞬間、体がびくりと跳ねた。

「あっ……」

「お、もう濡れてんじゃん」

「っ、言わないで……」

「触る前からこんなんなってたわけ?」

「でんじくんが、後ろから、抱きつくから……」

「抱きついただけでこれ? ちょろすぎだろ」

 ちょろくない。ちょろくない、もん。

 好きな人に後ろから抱きしめられて、耳元で囁かれて、お腹を撫でられたら、だれだって、そうなるもん。

 これまでの人生で培った理性も自制心も、デンジくんの前では紙きれ同然なのだ。ああもう、情けない。大人としても、上司としても、先生としても最低だ。分かってるけど、自分の女としての部分を隠せない。求められちゃうと、特に。

 いやになる、我ながら。


 下着がずらされた。直接、指が触れる。

「ふぁっ♡」

 制止しなきゃいけない場面なのに思わず甘い声が出ちゃって、自分で出した声に驚いて、慌てて口を手で押さえる。

「あはは、なんだその声。かわいー」

「かわいくないっ……」

「かわいいって。もっと聞かせて」

 指が、中に入ってきた。一本。ゆっくりと肌触りを確かめるみたいにに。

「ん、ぁ……♡」

 口を押さえているのに漏れる。デンジくんの指は大きくて、少し硬くて、でもあったかい。中を撫でるように動いている。


 好きバレしてから何回かこういうことをされるうちに(はい、すでに何回かあります。大人失格です。誰か私という性犯罪者のことを殺してくれ。)、デンジくんは私の体を完全に把握してしまった。どこが弱いか。どこを触ると声が出るか。どのタイミングでイくか、とか、全部。ぜんぶ。

「ここだろ」

 指が、一点を的確に捉えた。入口の上側の、ざらついた場所。

「ひぁっ♡♡!」

 背中がびくんと跳ねた。分かってる。ぜんぶ分かっている。この子は勉強は苦手なくせに、こういうことだけは恐ろしい速度で学習する。戦うことと、えっちなこと。要は楽しいこと。

「ここ好きだよな、確か」

「っ、やっ……そこ……♡♡」

「あと、ここをこうすると——」

 指がくるりと回転して、弱い場所を引っ掻くように擦り上げる。

「あ、ぁああっ♡♡♡!!」

 腰が浮いた。テーブルに手をついて、ぎゅっとしがみつく。教科書が閉じる。漢字ドリルが滑り落ちる。赤ペンが転がっていく。もう授業の続行とか、そういう次元じゃない。なにをどうしてでも、この指から逃げない、と。

「ほら、もうイきそうじゃん」

「ち、がう、……まだ、一分も……♡♡」

「んでも、もう実際イキそ~って顔してるし。副隊長が弱すぎんだよ」

 その通り。

 その通りなんだけど。でも、それが分かってるなら、もうちょっと手加減してくれても——そんなことを言おうとした矢先、ぐりっ、と指が弱い場所を抉った。

「っっっ♡♡♡♡!!!」

 イった。一回目。あっという間だった。デンジくんの指が——すきなひとの指が、一番弱いところを的確に押したから。体がぎゅうっと縮んで、じわっと弛緩して、膝がかくんと崩れる。

「お、イった。早くね?」

「デンジくんが……弱いとこ、ばっかり……♡♡」

「そりゃ弱いとこ触るだろ普通。触ってもなんともねーとこ触っても意味ねーし」

 普通じゃない。こんなの普通じゃない。普通はもっと、もうちょっと、緩急くらい付ける。手加減だってする。

 でもデンジくんにとってはこれ普通で。好きな人の好きな場所を触る。それだけのこと。私がそれを矯正しないから、いつまでたってもメリハリを覚えない。


 余韻が残っているうちに、指が動き始めた。

「ちょ、まっ……まだ、余韻……♡♡」

「よいん、てなんだよ。ほら、もっかい」

「え、ちょ——あ、ぁぁ♡♡♡!!」

 さっきイったばかりの、敏感になりきった場所を、同じ動きで、同じ力で擦られる。

 あっという間にもう一回イった。さっきよりもっと早く、もっと深く。

「はは、まじで……めっちゃ簡単にイくよな。心配んなるわ」

「ぅ、あ……もう、やだ……♡♡」

「……俺のこと、やだ?」

「それは、嫌じゃ、ないけどっ……♡♡」

「じゃ、いいじゃん。もっかい」

 三回目。指が、弱い場所をねちっこくこねるように動く。こねこね。ぐりぐり。力加減まで完璧に覚えている。私がいちばん感じる速度、いちばん声が出る角度、いちばん早くイける圧、全部全部、把握されて、悪用されてる。

「あ、ああ、あっ♡♡♡♡!!」

 体がびくびく震えて、テーブルに突っ伏した。教科書の上に顔がべしゃっと落ちる。「こころ」のページに涙の跡がつく。ソーセキにもK先生にも申し訳ない。

「お。泣いた」

「泣いてないっ……♡♡」

「涙出てんじゃん」

 泣いてると思うなら止めてくれよ。というかいっそ、ここでぴーぴー泣きわめいたら止めてくれるんじゃなかろうか。

「これは、生理現象、っ゛……♡♡」

「ふ~ん……?」

 そう思うくせに強がっちゃう私も、大概、私だ。

 もう抵抗する力がない。テーブルに突っ伏したまま、デンジくんの指に蹂躙されている。後ろからの抱きしめは解かれていなくて、背中にはデンジくんの体温があって、耳元で笑う声が聞こえて。全部が気持ちいい。全部が幸せで、全部が恥ずかしくて、恥ずかしいのさえきもちよくて、ぐちゃぐちゃな涙が止まらない。


 そのまま、十数分くらい、ぶっつづけで、触られて。

「ゆびっ……ゆびやら……♡でんじくっ、でんじくん゙ッ゙……おもちゃにずるの゙やぇてッ゙♡♡♡」

 とうとう余裕ぶるのにも限界がきて、なっさけない声で懇願した。涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔で、教科書の上に突っ伏したまま。

「おもちゃになんてしてねーって」

 デンジくんの声が優しかった。優しいのに指は止まらない。

「可愛いからイキ顔見たいだけ」

「そういうのをおもちゃにしてるって言うのッ゛♡♡♡!!」

「そうなの? じゃあおもちゃにしてる」

「開き、直ら、あ゛♡♡!!……ないで、よぉッ゛……♡♡♡」

 弱い場所を、こねこね、ぐりぐり~~って。もう体が条件反射で反応する。デンジくんの指が動くと自動的にイく装置みたいになっている。

「あ、ぁ、もう、ほんとに、む、り……♡♡♡♡」

「まだいける」

「いけない゛……♡♡♡!!!」

「いけるって。副隊長の体、俺が一番よく知ってんだから」

 なんの根拠で、そんなこと!! 勘違いも甚だしい、いっておくけど、こんなふうになったのはまだ数回……か、十数回目とかで、そんなにしょっちゅうこういうことをしてるわけじゃない!

 でも、もう、そんな抗議をする力もない。口を開けて、ぱくぱくと、声にならない声を漏らすだけ。涙だけがぼろぼろ流れている。体の力が全部抜けて、テーブルの上でぐったりしている。

 イくのだって、十回目を超えたあたりから、数えることをやめた。

「……あ♡♡♡……ぁ♡♡♡……」

 もう、なにも考えられない。

 気持ちいいとか恥ずかしいとか、そういう個別の感情が溶けて全部が一つになっている。デンジくんの指。デンジくんの体温。デンジくんの声。デンジくんの匂い。もうそれしかわかんない。

 こんなやつすきになるんじゃなかった。すき、だいすき、きらいきらいきらい。すき。やっぱりだいすき。

「ほら、もっかい」

「……♡♡♡♡♡」

 もう声も出ない。びくん、と体が震えるだけ。最後のひとつを絞り出すように、指がぐりっ、と深く押し込まれた。

「……っっっ♡♡♡♡♡♡♡♡」

 テーブルの上に突っ伏した状態から、とうとうずるずると床に崩れ落ちた。デンジくんの腕がそれを支えて、ゆっくりとフローリングの上に横たえてくれる。

「……ふー」

 見慣れた天井が見える。ぼやけている。涙で。

 それと、デンジくんが私の顔を覗き込んでいる。金髪。かわいいたれ目。ギザギザの歯。逆光で、綺麗な形の輪郭が光っている。


 デンジくんの顔を、見つめた。

 とろんとした目で。蕩けきった顔で。涙の跡がてかてか光っている頬で。ただ、見つめることしかできない。

「……副隊長」

 デンジくんの声が少しだけ掠れていた。いつものからかうような調子じゃない。

「やっぱ、すげー可愛い」

「……わたしが、デンジくんのことが、だいすきだから?」

「それもあるけど……べつに、それだけじゃねーよ

 そう言って、私を抱き上げた。お姫様抱っこ。ぐったりした体が、デンジくんの腕の中に収まる。華奢なくせにどこにそんな力があるのか、私の体を軽々と持ち上げる。

 リビングから寝室に運ばれていく。教科書と漢字ドリルと赤ペンが散乱したまんまの状態で。












 ベッドに下ろされた。

 ぐったりした体がやわらかいシーツの上に沈む。さっきまで何回も何回もイかされたせいで、指一本動かすのもしんどい。でも目だけはデンジくんを追っている。追わずにはいられない。だって好きだから。

 デンジくんがベッドの端に座った。私を見下ろしている。さっきまであんなにいたずらっぽく笑っていたのに、今はちょっとだけ真剣な顔をしている。なんだよ、もう。調子崩れちゃうじゃん。

「なあ、副隊長」

「……ん」

「ちゅーしたい」

 さっきあれだけ好き放題しておいて。あれだけ散々イかせておいて。教科書を涙で汚しておいて。

 それで今更「ちゅーしたい」って。やってることめちゃめちゃだ。

 うう、と唇を噛んだ。恥ずかしい。もう十分すぎるほど恥ずかしいことをされたのに、キスをするのはまた別の恥ずかしさがある。体を触られるのとは違う。もっと、こう、心のやわらかいところを差し出すみたいな。

 でも。

「わたしも、したい……♡」

 嘘はつけない。この人の前では、もう何も隠せない。全部バレてるし、全部さらけ出してしまった。いまさらキスを拒む理由なんてどこにもない。

「……ん。かわい」

 デンジくんが、顔を近づけてきた。

 唇が触れる。やわらかい。あったかい。さっきまでの意地悪な指と同じ人間のものとは思えないくらいやさしいキスだ。唇を合わせて、少し離して、また合わせる。ちゅ。ちゅう。控えめに舌が触れて、私の唇を舐めるように、なぞるように。

「ん……♡」

 甘い声が漏れた。キスが気持ちいい。体がぐったりしているぶん、唇の感覚だけが鮮明に感じる、ような気がする。デンジくんの舌が私の舌にそっと触れて絡まって、離れる。唾液が糸を引く。

 デンジくんの手が、私の頭を撫でた。よしよし。髪の毛をさらさらと手櫛で梳いて、猫を甘やかすみたいに。

 馬鹿正直に、全身がとろとろに溶けていく。さっきまでの快楽とは違う種類のここちよさ。安心する。守られている。好きな人の手の中にいる。

「副隊長」

 キスの合間に、デンジくんがまた耳元で囁いた。唇が触れるか触れないかの距離で。

「"いつもの"おねだり、聞きたい」

 心臓がどくん、と跳ねた。やだ、と考えるより先に唇が動く。

「やだっ……やだ、あんなこと、いえないっ……」

 首を横に振る。顔が熱い。耳も熱い。体中がかー、って、熱くなる。「いつもの」。デンジくんが毎回私に言わせるやつ。あれだけは、何度言っても慣れない。デンジくんは少し考えてから、また私にキスをした。今度はもう少し深く、舌を入れて、口の中を丁寧に舐めて。ぬるくて、あまくて、頭がふわふわする。ああ、もう、この段階でデンジくんがどういうつもりなのか、どういう魂胆なのか、分かり切ってるのに止められない自分が情けない!

「かわいい」

 キスの合間に呟かれる。

「ふくたいちょー、すき」

「やだ、やだ……」

「……このタイミングでやだって言われると、へこむんだけど」

「っ……!」

 好きって言われた。頭に、直接、吹き込まれるみたいに。ああ、もう、へこんでなんてないくせによくもいけしゃあしゃあと!

「……な、お願い。かわいい副隊長のおねだり、聞きたい」

 言いながら、デンジくんの指が——また下に降りた。さっきとは違う。中に入ってくるんじゃなくて、入口のところを指先でちゅく♡ちゅく♡って浅く、浅く、つついている。入るか入らないかの境目を、ちゅく、ちゅく、と焦らすように抜き差し。

「ぅ、あ……♡♡」

 ずるい。入れてくれない。さっきあんなに奥まで指入れて好き放題したくせに、今度は入口だけ。これが一番もどかしいって、それもわかってる。中が疼くのに、届かない。

「な、おねだりは?」

「うぅぅぅぅぅ……♡♡」

 涙目になる。恥ずかしいのと、もどかしいのと、好きなのが全部混ざって、もう、ぜんぶが、めちゃめちゃで。

「……っ」

 もう無理。もどかしさの限界だ。恥ずかしさより体が勝つ。好きな人に好きだと伝えたい。好きな人に触ってほしい。もっと奥まで来てほしい。もっともっともっと。

「だっ……」

 声が震える。顔を両手で覆いたいのに、力が入らなくて覆えない。デンジくんの目が、きらきらした目が、私の顔をまっすぐ見ている。気まずくて、恥ずかしくて、そっと顔を伏せた。

「大好きなデンジくん、の……入れて欲しい、ですっ……♡」

 言った。言ってしまった。ら、「おいこら、目ぇ逸らすなって。ちゃんと俺の目見つめながら言って」って。顎を掴んで無理やり視線を合わせられる。ああもう、どんな羞恥プレイだよ!

 きっとデンジくんのかわいいタレ目を睨みつけて、しばらく口ごもって。

「ぅ……だ、だいすきなデンジくんと、いちゃいちゃえっち、したい……♡」

 言ってしまった。いい年した大人の女が、こんな、まだ、子供にむかって、こんなことを。私は性犯罪者です誰か殺してください。でも、あれ。子供側のレイプの場合ってどうなるんだろ。あああああ、いや、問題はそこじゃないって分かってるけどさあ。

 顔から火が出る。比喩じゃなく、本当に燃えてるんじゃないかと思うくらい熱い。

「おし、よく言えました」

 一方デンジくんは嬉しそう。人の気も知らないでにまにまにま〜って、満面の笑みで笑ってる。るんるん、そんな効果音が似合いそうな笑顔だ。ギザギザの歯が全部見えている。世界でいちばん嬉しそうな顔。好きな人に好きだと言ってもらえた、単純な男の子の顔。

「副隊長のすけべ♡」

「でんじくんがいわせたんじゃん!!」

「でも言ったのは副隊長じゃん。俺セリフまで指定してねーし」

「っ……屁理屈!!」

「屁理屈じゃねーだろ。自分の口で言ったんだから、副隊長の本心」

「ぅぅぅ……♡♡」

 反論できない。だって実際、本心だから。大好きなデンジくんとえっちしたい。本心も本心、ど真ん中ストレートの本心だし。

 デンジくんが、ズボンを脱いだ。下着も。さっきまで私だけ裸にされていたのに、ようやく対等になる。

 入口に、熱いものが触れた。

「あ……♡」

「ほら。欲しかったんだろ」

「……っ、意地悪……♡♡」

 デンジくんが、私の両手を取った。指を絡める。恋人繋ぎ。左手も、右手も。十本の指が全部絡まる。手のひらがあったかい。少し汗ばんでいる。きっと私も同じくらい汗をかいている。

 くち、先端が少しだけ沈んで。

「ん、ぅうう……♡♡」

 あったかい。あったかくて、おっきくて、体の奥が押し広げられていく。さっき指で散々かき回された後だから、すんなり入る。でも指とは全然違う。太さも、熱さも、存在感も。体の真ん中にデンジくんがいる。それだけで、目の奥がじわっと熱くなる。

「……すき」

 声が、勝手に出た。

「んあ……」

「すき……♡♡ デンジくん、すき……♡♡」

 動き始めた。ゆっくり、やさしく、奥まで。引いて、また入って。繋いだ手をぎゅっと握る。デンジくんの手が握り返してくれる。

「あ、あ、すきっ♡」

 ちょっと動かれるだけで、喘ぎ声の代わりみたいにそう言ってしまう。

「すきっ♡」

 もう、こんなの超絶恥ずかしいことだってちゃんとわかってるけど、止められない。

「すきっ♡ すきっ♡ でんじくんっ、すきっ♡♡」

 奥に当たるたびに。押し込まれるたびに。引かれるたびに。全部のタイミングで「すき」が口からこぼれる。ほんとに、誓って、意識して言っているんじゃない。体の奥から勝手に湧き出してくる。気持ちいいのと、幸せなのと、好きなのが、ぜんぶ一緒になって、「好き」という形で出てくる。

「っ、副隊長っ、わかった、わかったから、それ、やめろって……!」

 デンジくんの声が掠れている。耳が赤い。首まで赤い。あはは、初めて愉快な笑い声がでた。ちょっとだけ、意趣返しが出来たみたいで嬉しかった。

「だってっ♡♡ すきなんだもん、すきすきすき……♡♡」

「……っ、あ゛ー、もう……」

 デンジくんの腰の動きが速くなった。さっきまでのゆっくりした動きから、少しだけ荒くなる。でも手は離さない。繋いだまま。ぎゅうぎゅうに握ったまま。

「デンジくんっ……すきっ♡♡ だいすきっ♡♡」

「っ、ああ、ああ、俺もだよ!」

「あ、あ♡♡」

「俺も、好き。副隊長のこと、好きっ……!」

「……っ、ぅ、あ……♡♡♡……でんじくん、すき……♡♡ すきすきすき……♡♡」

「はは……やべ、ほんとに頭ぐちゃぐちゃになる……」

 デンジくんの額に汗が滲んでいる。呼吸が荒い。顔が赤い。目が潤んでいる。ギザギザの歯を食いしばって、何かを堪えている顔。

 ああもう、どうしようもないくらい、この顔が好き。この子が、好き。

「でんじくんっ……もう、だめ……イ、っちゃう……♡♡♡」

「……っ、俺も、やべ……」

「いっしょに……いっしょがいい……♡♡♡」

「……ん、っ」

 手を、ぎゅう、と握りしめた。十本の指が食い込むくらい強く。

「あ、あ、でんじくんっ……すきすきすきすき……♡♡♡♡♡」

 イく、の代わりに。好き、好き、好き。体の芯から溢れてくる言葉が、そのまま全身を貫く快楽と一緒にぶわっと弾けた。目の前が真っ白になって、体がびくびく震えて、でも手だけは離さない。デンジくんの手を、ぎゅうぎゅうに握ったまま。

「……っ」

 デンジくんの体が強張った。奥で、熱いものが弾けた。脈打つように、何度も何度も。

「……♡♡♡♡♡」

 声にならない。ただ、涙がぽろぽろこぼれて、繋いだ手が震えて、体の奥がデンジくんの熱で満たされていく。

 しばらく二人とも動けなかった。荒い呼吸だけが部屋に響いている。

 デンジくんが——ゆっくりと、私の上に体を預けてきた。重い。でもあったかい。あったかくて、やわらかくて、心臓の音が聞こえる。

「……ん。重いよな、どくか?」

「どかなくていい……♡」

 繋いだ手はまだ離さなくってもいい。

 空いた方の手で、デンジくんの頭を撫でた。金色の髪がさらさらしてて、でもやっぱり、ちょっとだけ汗で少し湿っている。この頭をもう何百回と撫でてきた。漢字ドリルを頑張ったとき。悪魔を倒したとき。夜更かしして眠そうにしているとき。

「……でんじくん」

「ん」

「だいすき」

「……知ってる」

「もういっかい」

「……俺も、好き」

「……えへへ……♡♡」

 にまにま笑ったら、デンジくんが「はは、すげー変なにやけ顔してる」と言ったので、太腿でデンジくんの脇腹を挟んでぎゅっとした。「いて」「にやけ顔をきもいっていうな」「痛いんだけど」「言い直して」「……にやけ顔、かわいい」「……よろしい♡」

 だれか私を殺してくれ。



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