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 バーというのは大人の場所なんだなあ、と、改まったことをぼんやり思う。別に今日が初めてじゃない。私もいい年だし、バーなんて何度も来ている。でも今日は少し違う気がして、カウンターに並んで腰を落ち着けながら、なんとなく周りをきょろきょろと見回してしまう。革張りのスツール。仰々しいラベルのボトルが並んだ棚。バーテンダーさんがグラスを磨く音が、BGMの隙間をしんと埋めている。

 うん、やっぱり大人の場所だ。

「副隊長。こうやって仕事終わりに呼び出すのは別に構わねぇけどさ」

「うん?」

「人前で……特に、公安の本部みたいな場所でデンジ"くん"はやめてくんね? 俺にも一応立場ってのがあんだろ、今は」

 隣に座ったデンジくんが苦々しい顔で言うのを見てくすくす笑う。思い返されるのは数時間前のこと。公安本部のエントランスで彼のことを「でんじくーん!」って大声を出したら見たことないくらい苦々しい顔で振りかえられて、よくよく見たら新卒っぽいかわいい若い子を後ろに二人引き連れてた。

 デンジくんも、もう立派な”先生”の立場だ。

「えへ……ごめんごめん。じゃあ……デンジパパ?」

「余計ひどい。アンタがその顔で言ったらパパ活だパパ活」

「そうかな?」

「そうだろ」

 デンジくん……デンジくんは、いよいよ呆れたように額に手を当てた。眉間の皺が深い。いや、別に不機嫌なのとは違う。これはもう、四十路の加齢に伴うやつだ。本人に言ったら死ぬほど嫌がるので、黙っておくけど。

 まじまじと横顔を眺める。

 端正な顔立ちは変わっていない。でも、頬の肉のつき方が変わった。目の下のくぼみが少し深くなった。首筋に走る筋が、昔より一本多い。笑うとくちゃっと寄る目尻の皺が、笑い終わっても薄くうっすらと残るようになった。

 ああ、老けたなあ。

 老けた……って言葉は、なんか悪い意味みたいで、本当はうまく言えないんだけど。老けた、というよりは。年を、ちゃんと重ねた。そういう顔になった。それはきっと、悪い事じゃないよね。

「……改めて見ると、本当に年取ったねぇ、デンジくん」

「そりゃ四十路にもなればな。というか、アンタがその見た目で固定されすぎなんだよ」

「にゅふ。副隊長さんは美魔女だからね」

 鏡に映る自分の顔を見る。バーカウンターの端、洋酒のボトルの間に挟まれるような形で、壁に埋め込まれた小さな鏡。照明が落ちているから細かいところまでは見えないけれど、輪郭だけは分かる。

 ほっそりした顎のライン。丸い目。

 20代のころのまんまの私の顔。この数十年間、ず~っと歳をとっていない顔。なんでって問いの答えは単純で、つまりは悪魔との契約の副作用だ。

「うむ、うむ。……まあ、それももう終わりなんだけど」

「あ?」

 デンジくんが顔を上げた。ぱちぱちと目を瞬く。その目尻にまた皺が寄って、それを見ながら少し笑う。

「副隊長さんはねぇ。今日で、契約してた悪魔との契約を切りました」

「……」

「新人で、才能のある子が見つかったからね。そっちに譲って、私は引退」

「そりゃ……お疲れ様」

「ありがと。今日からは普通に年取って、普通の生活して、普通の人間として生きていきますよ。大変だろうけど」

 デンジくんは意外そうな顔をして、一口お酒を煽った。

「うん……そっちの方がいいと思うぜ、絶対。歳とるって、結構いいもんだから」

「ほえー。そっかそっか……でもシワシワは嫌だなあ、ピチピチで居たいよ」

「そりゃ俺に対する嫌味かよ」

「えへへへ」

 くすくす笑ったら、デンジくんがますます眉間に皺を刻んだ。本当に、この子は昔から変わらない。顔は老けたのに、拗ねる顔だけは16歳だったころと同じだ。……そういう顔をするたびに、なんだかずっと昔のことを思い出して、胸の奥がじんわりと熱くなる。それをどう表現していいのかは、まだよく分からないままだけど。


 バーテンダーさんが新しいグラスを置いてくれた。アカシアの蜂蜜みたいな色の液体が照明を受けてきらめく。グラスを持ち上げて、ちびりと舐めた。苦い。全然美味しくない。けど、飲めないこともない。昔は全然飲めなかったのに、ちょっとだけなら舐められるようになった。これって……大人になったって、言えるのかな?

「んでさ」

 グラスを置いて、少し間を置いて。

「普通の人間に戻るにあたって、はじめの一歩でデンジくんに込み入ったお願いがあるのですが」

「……聞くだけ聞く。言ってみ」

「んう、二つ返事で了承してよ。長い付き合いでしょ」

「長い付き合いだから二つ返事で了承出来ないんだろ」

「むう」

 まったく、まったく。なんて不躾な後輩なんだろうか。デンジくんは20の半ばを過ぎて……私より大人っぽい見た目になってからは、私を年下みたいに扱ってくるようになった。もう慣れたけど、不服じゃないわけじゃない。

 とはいえいちいち突っかかっても仕方ないので、もう一口だけお酒を舐めて、改めてデンジくんに向き直った。

「なんとね、デンジくん。衝撃の事実なんだけど……!」

 一段声を潜めて耳元に近寄る。デンジくんが微かに警戒するのが分かったけど、それは無視して、ひそひそと囁いた。

「私はね、この歳にもなって……なんと……未だに処女なんですよ」

「……はあ?」

 デンジくんが反射的に声を上げて、私は慌てて「しっ!」と口に指を当てた。バーテンダーさんがちらりとこちらを見たような気がして、恥ずかしさで耳が熱くなる。

「その見た目で? 機会いくらでもあっただろ」

「んね、衝撃でしょ?? いやさそれがねそれがね、契約悪魔が処女厨でさっ、迂闊に性交渉とか出来なくて」

「はあ……んなとこまで管理されてたのかよ……」

「私がこの年まで生き残れたのも、ここまで出世出来たのも、そしてこの年までぴちぴちフェイスなのも、ひとえに私の顔をあの悪魔くんが気に入ってくれていたからであります。彼にはお礼を言っても言い切れません」

「相手、悪魔だけどな」

 デンジくんがまじまじと私を見た。

 上から下までゆっくりと確認するみたいに。私は無駄に背筋を伸ばして、ちょっと胸を張った。見られると少し恥ずかしいけど、別に隠すようなものでもない、と思う、たぶん。うん。

 問題は次だ。

「えへ……それでね、だからね、おねがいの内容っていうのが……」

「…………すげえ嫌な予感するけど、おう」

「処女卒、手伝って欲しいな〜……って……」

 言ってしまってから、じわじわと顔が熱くなってきた。いや待って、声に出して言うとすごく恥ずかしいな!?冷静に考えてこれどういう状況?自分で言い出しておいて自分で引いている。や、ほんと、どんなお願いだ。

「わかっわかわかわかってる! いい年こいた私にこんなこと頼まれてもびっくりするだろうけど! というか重いだろうけど! でも付き合い長いデンジくんにしかこんな馬鹿な話頼めないんだよぅ!」

「そこは問題じゃねーよ、今となっちゃ年ほとんど変わんねぇし」

 デンジくんが少し考えながら言う。

「……というか、わざわざ卒業焦ることあるか?タイミングだろ、そういうの」

「それはぁ……」

 もじもじする。いや、もじもじしてる場合かとは思うけど。でもなんか、もじもじしてしまう。グラスを両手で包んで、視線を落として、えへへ、って笑い声が漏れた。

「え、えっちなこと、してみたい……デンジくんならあれこれ慣れてそうだし、安心だし……」

「……」

「せ、せっくすってやつ、してみたい……」

「…………16歳んときの俺と一緒のこと言ってんじゃん……」

「う、うるさい! で、でっ……ど、どうなの」

 恥ずかしさと勢いとが混ざり合って、思ったより強い声が出た。隣のカップルがちらっとこちらを見た気がして、もう色んな意味で死にたい。でも引けない。だって、ここで引いたら何のためにデンジくんを誘ったのか分からなくなる。

「ひきうけて、くれるの」

 目が合っちゃうのは怖いけど、それでも恐る恐る、上目遣いでデンジくんを見た。

 デンジくんは一拍黙って、ウィスキーのグラスに手を伸ばした。こく、こく、と大きな喉ぼとけが動いて、ことん、とグラスが置かれる音がして。

「……お前さあ」

 低い声が、落ちた。

「それ、マジで言ってんのかよ」

「まっ……マジもマジだよ! 嘘でこんなこといわないよっ……」

「俺、別にそういうの上手くねぇぞ」

「でも、きっと私より上手だもん……」

「そういう意味じゃなくて。……あんまり優しくすんのは得意じゃねぇって言ってんの」

 ……あれ。

 ちょっと待って。それって、つまり。

「……デンジくんは優しいよ?」

「だから……ああ、クソ」

 デンジくんが自分のウィスキーを一気に飲み込んだ。それだけでは足りなかったらしく、ついでに私のグラスに手を伸ばして、中身をもう一気飲み。

「あ! ちょっと!」

「アンタがちびちび酒舐めてんの待ってたら日が暮れる」

「う〜……それはそうかもだけど」

「行くぞ」

「わ、わ、えっ……ど、どこに?」

「俺ん家」

「うえ、おうち帰っちゃうの?」

 はあ、って大きなため息をついて、デンジくんの指が私のほっぺたをつまんだ。ぐにっ、と。

「時々本気で思うんだけどよ、マジで脳みそも20の頃から進化してねぇんじゃねえの」

「ぅ……ひゃい?」

「すんだろ、性交渉。だから俺の家行くの。この年でその見た目のアンタとラブホってのも気が引けるし」

「あ……わ、わ、わ!」

「タクシー捕まえるからそこで待ってろ」

 有無を言わさず言い切って、さっさと立ち上がった。財布を取り出してカウンターに紙幣を置いて、迷いのない足取りで出口に向かう。

 一拍遅れて、バタバタと後を追いかけた。

 頭の中がぐるぐるしている。今まではちゃんとあったはずのに、今日の今日に急に行方不明になった脳みそを探しながら、タクシーの後部座席でシートベルトを締めた。











 猛烈に出世したデンジくんの家は、そりゃ大きくて、豪華で、家賃が高そうで、何回来てもちょっとびっくりする。

 何回も来てるってことが既に答えなんだけど、私はそこそこの頻度でデンジくんの家に遊びに来ているのである程度の勝手は知っていた。

 キッチンの棚のどこに茶葉があるか、とか。電気ケトルのコンセントがどこに刺さってるか、とか。まあ、そういうこと。

「お茶飲んでい?」

「おう」

 慣れた動作でお茶を二人分ついで、リビングに向かう。デンジくんは広いソファの真ん中にどっかり座っていて、私は隣に腰を落とそうとしたんだけど。

「こっち」

「ほえ」

 手を引かれた。あ、あれ。なんで私、デンジくんの足の間に座らされてるの。

 後ろからがっしりと抱きしめられる。デンジくんの腕がお腹のあたりに巻きつく。大きい腕だ。私がちっちゃいのもあるけど、この子の腕は昔からやたらと大きい。

「の、飲みにくい、よ」

「飲んだらさっさと机の上置けばいいだろ」

「な、なんで……」

「イチャイチャすんのに邪魔だし」

「いちゃっ」

「しねぇの」

「す、するの……?」

「しねぇで突っ込んだらまあまあクソ痛えと思うけど。……アンタチビだし、ちっちゃいし」

「か、関係、あるの……? チビなの……」

 返事はなかった。

 代わりに、後ろからすっぽり包まれる形で、手を恋人繋ぎにされて。指の間にデンジくんの指が入り込んでくる。大きな手のひらが私の手の甲をすっかり覆って、ぎゅ、ぎゅ、ってニギニギされる。それから耳たぶを、ぺろっとやられて。

「ひゃっ!」

「声でけぇ」

「だってっ……」

 っそれでまた、今度はほっぺに、ちゅ、って。

 な、なんか。本気でえっちな雰囲気だ……。

「う……」

 ごくりと喉が鳴った。自分でも聞こえた。なんか、私だけいっぱい気合入ってるみたいで恥ずかしい。でも仕方ない。だって後ろから抱きしめられながら、指を絡められながら、耳とほっぺをちょこちょこいじられていたら、どうしたってドキドキするじゃないか。しょ……処女だもの。私。

「ん……副隊長」

「な、なあに……」

「こっち向いて。キスすっから」

「き、きす!?」

「処女は渡せんのにキスは嫌?」

「や、じゃ……ない、よ」

 恐る恐る立ち上がって、ゆっくりと向き直る。ソファの上で、デンジくんの方に体を向ける。真正面から見ると、やっぱりおじさんになったなあ、って思う。でも目は変わらない。あの頃と同じ目で、私を見ている。

 恐る恐る目を閉じたら、そっと唇が重なった。

 柔らかい。あったかい。

 それだけしか最初は分からない。

 で、で、でんじくんと、ちゅーしちゃってる……ってガチガチに強張って、全身フルフルと震えてたら、デンジくんがくすくすと笑った。くっついたまんまの口元が動いたからすぐに分かった。

「そんなビビんなくったって、すぐに取って食ったりしねぇって」

「ぅ。そゆ、の、じゃなくて……」

「ん、じゃあ何」

「で、でんじくんとちゅーしてるって思ったら、すごいどきどきするの……」

 すこし沈黙が流れて、それから、デンジくんがまた笑った。さっきとは少し違う笑い方。

「……へえ。可愛いこと言ってくれんじゃん、実際は俺より年上の癖に」

「うるしゃい!心は乙女なんだもん……」

「アンタの場合は見た目だって乙女だろ」

 なんだかそれってちょっとややこしい。

 ぐるぐる考えて居たら、頭に大きな手が乗せられて、ゆっくりと撫でられた。

 それから。

「副隊長、ベロ出して」

「うぇ……」

 だ。だすの、べろ。なんで。……分からないけど、ひとまず指示に従う。

「こ、こぉ……?」

「そ。上手上手」

 恥ずかしいを通り越して何が何だか分からない顔をしていたら、唇がまた重なって。今度は違った。さっきより深くて、ゆっくりで、でもしっかりと舌が入ってきて。ぞくぞくって電気が背骨を伝う。

「ふぁ……♡」

 わかんない。わかんない、比較対象がないからわかんないけど、デンジくん、たぶん、めちゃくちゃキスが上手い。

 なんか、うまい、すごい、って。ただそれだけが頭の中をぐるぐるしている。こんなに気持ちいいものだったのか、キスって。なんというか、お酒の味がするのに、それすら妙にえっちで。

 大きな手が背中を伝って腰を撫でる。おしりのあたりを、ゆっくりと。腰から体中がゾクゾクしてるのを見越してるみたいな、ちょうど一番効くところを狙いすましたみたいに。

 もう、なんていうか。このひと、私より私の体のこと分かってるんじゃないだろうか。こわい。

「……へえ」

「な、なぁに……」

「副隊長って、あれだな。マゾっけある方か」

「やぁっ!?」

 びっくりした。し、しらん。……しらんよ、そんなことは……。というか、何を根拠に。ジトッとした目でデンジくんのことを睨みつけるけど、効いた様子はない。

「な、な、なんでそんなこといえるの!知らないよそんなこと!」

「んー……んじゃもっかい口開けて」

「ぅ……またちゅうするの?」

「違う。とにかく軽く口開けろ」

「ぁっ……は、はい……」

 有無を言わさぬ口調で命令されて、恐る恐る、言われた通りに口を開けたら……。

「ん゙っ゙!?!?」

 口移しで生ぬるい液体が流れ込んできた。唾液を流し込まれたんだってことに気が付くのに数秒かかって、気が付いてから思い切り咽る。思いっきり突飛ばそうとしたけど、後頭部をがっちり摘まれているせいで離れない。

 同時に、下から太い指が、スラックス越しに膨らみをすりすり、って、なぞって。一気に二つもおっきいことをされて、頭が混乱する。どっちから拒めばいいのか分からない。というか、そもそも、拒むべき……なのかも。

 ちゅ。水音がして、デンジくんの唇が離れていく。

「ん……のんで」

「んん!」

 すぐに吐き出したかったけど、上から手で口元を抑えられたせいで、唇を開けられない。その間も下はすりすり撫でられ続けていて、こんがらがる。

「いいから。……多分だけど、アンタってこういう扱いされんのすげー効くタイプだと思うぜ」

 そ、そ、それこそ、一体なにを根拠に!

 そう叫びたいのに、声が出せない。涙目になりながら、必死に喉を動かす。飲む。飲むよ。飲めばいいんでしょ。

 こくこくと何回か喉を動かしたあたりでようやく手が離れていって、そのままぽんぽんと頭を撫でられた。

「口空けて、中見せて」

「ま、また唾いれるの!?」

「入れねぇから。ほら、あーん」

 少し顎を引いて、イヤイヤだけど中を見せる。ちゃんと飲んだってば。

「よしよし、よく頑張ったな」

「ゔー……♡」

「はは……そんじゃほら、今度は普通のキスすっから。それで機嫌直せって」

 なんで普通のちゅーで私の機嫌が直ることになってるの!

 反論したいけど、甘やかすみたいにまた深いちゅーをされたら、素直に受け入れちゃう自分が憎い。だって、きもちいいんだもん。ぐちゅ、って音がして、自分の口から出た音なのに恥ずかしくて耳が燃えそうになる。なのにその恥ずかしいのもなんだか気持ちよくて、ぞくぞくして、ふわふわして……なんにも、考えられない、みたい。

「ぅあ……♡」

「副隊長、腕貸して」

「こ、う……?」

「そう。上手上手」

 それで。ぽけーっとしてる間に、するすると、ワイシャツを脱がされた。

「ブラかわいいな。普段からこんなの着てんのかよ」

「ぅ……今日は、特別だもん……」

 言った後でちょっと後悔したけど、もう遅い。

 デンジくんが「ああ」って顔をして、無精ひげの生えた顎をなぞった。

「そっか、"これ"頼むから可愛いの選んできたのか」

「わざわざ言葉にしていわないでっ!」

「へーへー」

 バカにされてる!

 恥ずかしすぎて涙目になってぽかぽかデンジくんの胸元を殴ったけどまるで効いてなさそうで、二重に恥ずかしい。まるでこれじゃ、私の方があかちゃんだ。そんなわけ、ないのに。だってデンジくんはまだまだ子供で……うう……。

 私の方が、お姉さん、なのに。こんなのって不公平だ。

「あ……わ……」

 ブラのホックが外れされた。するっと、私も気が付かないうちに。

 脱がされると思って目を細めたけど、そうはならなかった。軽くブラを上にずらされて、キャミソール越しに、乳首をかりかり、って指先で擦られる。

「ふぁ……あっ♡んう……な、なんで、ぬのごし……」

「こっちのが気持ちいいだろ」

「わ、わかんないよ、そんなの……」

 それは分かんない。けど、前に自分で試しに触ってみた時より気持ちいいのは確かだった。

「う、う……♡」

「ん、顎上げて。キスすっから」

「んうう……」

 素直に言われた通りにする。なんていうか、全然かんじが違う。骨の髄まで響くみたいな、甘くて鋭い刺激が、ちゅーの気持ちよさと混ざり合って、頭の中がふわふわしてくる。やっぱりうまい、すごい。

 思考がだんだん、まとまらなくなってきた。

「気持ちいい?」

「きもち、い……」

「そっか。そのうち乳首だけでもイけるようにしような」

 ん?そのうち?

 疑問に思って顔を上げたらまたキスをされた。

 左手で乳首をかりかりしながら、スラックスの上から、お股を、すりすり、って。なんだか誤魔化されたような……あれ、なんだっけ……。

「んっ……♡」

 じんわりと熱が集まってくる感覚のせいで、ちゃんとモノを考えられない。

 しばらくそのままかりかりされて、それから。

 膝に乗せた形のまま抱っこして、そのままベッドに運ばれた。あれよあれよという間に、という言葉がこんなにぴったりの状況があるだろうか。

 あっという間にスーツを脱がされた。

 慣れた手つきでブラとキャミソールをひっぺがされて、スラックスのウエストに指をかけて、抵抗する間もなく下着だけにされていた。

 今日の為に選んできたちょっとえっちでかわいい下着はなんだかぺらぺらで頼りない。

デンジくんも自分の服をさっさと脱いで、気がついたらお互いほとんど素っ裸の状態になっていた。

「う、う……は、はずかし……」

「こっからもっと恥ずかしいことすんだぞ」

「あぅぅ」

 そうは言っても、じゃあ今すぐ心の準備ができるかというと、それはそれで別の話じゃないか。

 視線が気になって仕方なくて、咄嗟に腕で胸を隠したら、その腕ごとすんなり退けられた。やんわりと。でも意思のある手つきで。

 下着越しに、指が下腹部を揉むみたいにをすりすりした。うう、また。

「ん、ちゃんと濡れてるな」

「っ……」

 し、知ってる!でもそれを言葉にして言わないでほしい!頭まで血が上る感覚があって、顔がきっと今夜いちばん赤い。でもデンジくんは何事もないような顔でちゅーの続きをして、そのまま顔の位置をちょっと下げて、乳首を吸った。

「ふ……ぁ、あっ……♡」

 段々、頭がポワポワしてきた。考えることと感じることが、少しずつ混ざり合い始めて、思考の輪郭が曖昧になっていく。気持ちいい。素直に、気持ちいい。自分の体がこういう感覚を持っていたことを、今日初めて知ったような気がする。

「ん……そろそろ直に触るぞ」

「う、ん……」

「……あ。その前に1個確認」

「うん?」

 確認という言葉に少し緊張して顔を上げようとしたら、その前にするりと下着を脱がされた。それから腰を持たれて、体勢が変わって……なんか、こう、逆さまというか。膝が顔の横にきそうな、よく分からない角度にされた。

「わ……わああああ!!??!!」

 それで、直接、見られている。なんなら指で広げて、まじまじ~って中身まで。

「やだっやだっはずかしいっやめて!!!!」

「おー……マジで膜あんじゃん」

「やああああっ!! やだっやだ! やめろ!!!」

 今日一番の拒絶が出る。思いっきり顔を蹴っ飛ばしてやろうとしたけど、太ももを抑えられてるから無理だった。

 恥ずかしすぎて死にそう。ていうか文字通り死んじゃいたい。こ、こ、こんな辱めがあってよいものか!!

 涙目になって本当に決死の思いでじたばたしたけど、がっしりと腰を押さえられているから逃げられない。

「だから、これからもっと恥ずかしいことするんだろ」

「それとこれとはべつっ、あ!??」

 声が涙交じりになってるのに、デンジくんは涼しい顔で。こ、こういうものなの!?これって、デンジくんがトクベツ意地悪なのとかとは、ちがう!?

 なんにもわからない。わからない……わからないところに付け込まれているような気がしてならないけど、それを確かめるすべすらない。

「あ、ああっ」

 つぷ。一本、指が入ってきた。その事実だけで頭がぐらぐらする。感触は……なんだろう、今まで感じたことのない種類の圧迫感があって、変、という言葉しか思い浮かばない。変な感じ。でも痛いわけじゃない、のかな。

「きっっつ……解すの相当時間かかるぞこれ」

「う、う……は、はずかし、から、多少巻きでも……」

「やだ。無理やりねじ込んでも俺が気持ちよくねぇし」

「そ、そうなの……?」

「おう」

 そ、そういうものなんだ……そういうものなんだ?なにもかも分からなくて、こまる。

「ん。……う、あ……」

 デンジくんの指は太くてゴツゴツしていて固い。ちょっと動かされるたびに変な声が出るのを、必死に奥歯で噛み殺す。でもなんか、すごく的確に、触られると感覚が変わる場所を探り当てて、そこをこねこねぐりぐり~って……。

 た、たしかに、気持ちよくてう〜ってなるんだけど、でもなんというか……なんか、まだ足りないような。焦らされているような。もどかしさが、体の奥でちょっとずつ積み重なっていく。

「……中はだめか。なあ副隊長、普段オナニーする時どこ触んの」

「ひっ……ほああ!? な、なんでっ……」

「やっぱここ?」

 あ、と思う間もなく、突起を親指で捏ねられる。答えさせる気があるんだか無いんだか。

「ぅあ♡ぁ♡ちが、あっ……おな、おなにー、とか、も、しなかったから、わかんないぃ……♡」

「……は? まさかイったことねぇの?」

「ふぁ……え、っと、たぶん、うん……」

 一旦、指が抜けた。触るのも止まった。そ、そんなに変なことなんだろうか、それって。全人類が皆、自分のおまたをこねこねいじくってると思ったら大間違いなんだぞ。

 でも、デンジくんは、仕事中でさえそうそう見ないような真面目な顔で静止している。ちょっと覗き込んだら、すごくすごく冷静な顔をしていた。怒っているとか呆れているとかじゃなくて……本当に純粋に、状況を整理している顔。処理中、という感じ。

 こういう顔をするんだな、と思ったけど、思ったことを口に出せる余裕は今の私にはない。心拍だけがうるさい。

「うん、うん……なるほどな、そのレベルか」

 しばらく黙ったまま私を見下ろして、何かを考えていた。何を考えているのか、全然分からなくて、私はどんな顔をしていればいいのかも分からなくて、ただ胸の上で手を合わせて待つ。こ、こわい。なんでこんなにどきどき審判を待つような気持ちに、私はいま……?

「でん……でんじくん?」

「おし、決まった。続きやんぞ」

「え、う、ん……あっ、あ」

 また指が入ってきた。今度はさっきより少し深いところを、くちくちと丁寧に、触れる。

「あんま詳しく無いだろうから、予め教えておくけど」

 やけに穏やかで、なんか、説明するみたいな、先生みたいな口調だ。指が動いているのに、声だけ普通なのがなんか妙で、でも今それに突っ込む余裕もない。

「う、うん」

「セックスん時、挿入以外でイくのってすげぇ失礼なことだから」

「えっ!?……そ、そうなの?」

「おう」

「……で、でも、さっきちくびで、って……」

「ありゃ言葉の綾だ、忘れろ」

 そ、そうなの?まだイくっていうのが何か、体ではなんとなく分かってきたけど言葉で説明はできなくて、でもそれが失礼なことって……どういう理屈なんだろう。ちゃんと考えたかった。

「恋人が出来たら一人でオナニーすんのもそれでイくのも浮気だからな、覚えとけよ」

「そ、そうなんだ……」

 そうなんだ、って。そうなんだ……??

 考えようとした。ちゃんと、整理しようとした。でも指が動いているから頭がふわふわするし、そのうちクリも同時に捏ねられ始めて、あ、本当に気持ちいい、ってなってきて。中がきゅう、ぎゅ〜……ってなって、頭がぽやぽやしちゃう。

 それで、その瞬間に、また指が止まった。

「こら、今イこうとしてただろ」

「うぁ……そ、そうなの?ごめんなさい……」

 でもでも……ほんとに何がなんだか分かんないんだもん……って返そうとした瞬間に、また指が動き始める。しかも、中と外と両方同時に。またすぐにイきそうになってきて、あ、あ、ダメなのに。我慢しようと思って力を込めてみたりシーツを握ってみたりするけどあんまり意味はなくて、焦って焦って、でも結局全身から力が抜けそうになる。

「あ、あ、あ♡♡!!ごめんっやめてっイっちゃうっ!!」

「ほら、我慢」

「我慢っ、我慢の仕方わかんないっ、うぇっ、あ゙、あ゙♡♡!!!」

 どう頑張ったって頭がぽわぽわする。ぎゅうう、って唇を噛んで我慢しようとしたけどあんまり意味はなくて、体中の力が一気に抜けて、ベッドの上に沈み込む感覚がした。一拍置いてから、はふ、はふ、って呼吸が戻ってくる。なにこれ、なにこれ、って思いながら天井を見ていたら、デンジくんの声が上から落ちてきた。

「……はあ。イっちゃだめだっつっただろ」

「らっ、らって、がまん、しようないもん、あんなの……」

「それを皆我慢してんだよ。今の、ベットの上でおもらしすんのと変わんねぇからな」

「う、うぅ……ごめんなさいっ……」

 おもらし。おもらし……おもらし。その言葉が思いのほかずしんと響いた。おもらし。おもらし……。自分でもびっくりするくらい落ち込む。

 そう言われると、確かに……もしこれが初めての相手の前で起きていたら、と想像すると、だいぶ、そうとう、顔から火が出そうだ。

「今のまんまだと誰とも付き合えねぇぞ。初夜で幻滅されて振られんのがオチだろ」

「そ、そんな……そんなに失礼なことなの……?」

 でもまあ、おもらしって考えたら、そっか……そっか……。

「ん……だから、良かったじゃん、初めての相手が俺で。俺ならほら、大抵のことじゃ引かねぇしさ」

「ぅ……それは……よ、よかった……?」

「ああ。いい年こいて初めてできた恋人の前で粗相して初夜でフラれる、ってのも可哀想だし。だから、そうならないように俺が躾てやるよ」

「しつけ……?」

 躾、という単語に少しびっくりする。そんな、犬みたいな。

 でもデンジくんの手が私の頭に乗って、ゆっくりと撫でてきて。よしよしされてるうちに、なんだか素直に言うことに従っていたほうがいいような気がしてくる。

「触られてもイくの我慢できるようになる練習付き合ってやる。俺が相手なら安心だろ?」

「ぅ……いいの?」

「今更遠慮することねぇだろ別に」

「そ……れじゃ、うん……付き合ってくれる?」

「おう」

 太ももの内側をすりすり撫でられて、恐る恐る足を開く。自分でそうするのがなんか一番恥ずかしくて、でも開かないと始まらないし。

「あ……あっ♡」

 右手の指が、今度は二本、入ってきた。

 さっきより少しきついけど、さっきより余裕ができた部分があって、う、う……って思いながらなんとかなる。上っ側の、ぐりぐりってされると変な感じがするところを、また丁寧に触れてくる。この人は本当に、いいところを外さない。でも今度は覚悟してたから、ちゃんと全身に力を入れて、両手で枕を抱きしめて、口元を隠して……我慢できる。まだ我慢できる。

 でも、左手が、突起に触れた瞬間に。全部弾けて、我慢してたものが吹っ飛んでいく。

「あっ゙♡♡♡そこっ我慢できないだめ!!」

 腰が勝手に逃げた。全然、意図して逃げてるわけじゃない。自分の体なのに、全然言うことを聞いてくれなくて、なんか悔しいような情けないような気持ちになる。

「ここ弱い?」

「んっ、んっ……そこ、だめ……!」

「んじゃここ重点的に練習だな」

「う!?」

 そう言って、情け容赦なく上から優しくぐにぐに〜って押してくる。り、りっ、理屈は分かるけど……!

 でも、うん……。

「あ……あっ」

 さっきみたいに激しくはない。圧迫するくらいの、やんわりとした力で。

「どう?」

「ま、まだ、がまんできる……」

「ん、ならその調子」

「うん……あ。ちょと、いい……?」

 師がる先が欲しくて、頭の下にあった枕を引きずり出して抱きしめた。デンジくんの匂いが胸いっぱいに広がって、なんだか不思議なかんじだ。

 ぎゅ、って歯を食いしばって、足の指に力を込めて、体の奥に溜まっていくやつを必死に押しとどめる。

 我慢、我慢。

 ……でも、これって。いつまで続くんだろう。我慢、は、したいけど……終わりが見えないのはかなりつらい。

 段々体が暖かくなってきた。今は大丈夫でも、先のことは分からないし。

「う……う~……」

 さっきからずっとこねこね〜ってされていて、体の奥にじわじわと熱が溜まってくる。さっきイったばかりなのに、もうまた。体って正直だなあ。……というかこれ、ほんとに……ほんとに、我慢できるやつなの?

 必死に押しとどめようとするけど、全然うまくいかない。焦れば焦るほど体の方が先に動いていく。

「あ、あ、でんっでんじくん……」

「ん」

「あの……ちょ、ちょっと、とめて……」

「止めない。ほら、我慢」

「だめっ……あ゛、あ゛! だめ! だめっ!! これ我慢の仕方わかんない゙♡♡!!」

「トイレ我慢すんのと一緒だって。ほら、せめてあと一分。数数えてたらすぐだろ」

「むりむり゙っ゙わかんないわかんないっ゙、あ゙♡♡♡!!!」

 また呆気なくイってしまった。

 枕に顔を押しつけながら、情けなさで涙が滲んでくる。

 ごめんなさい、ごめんなさい。でも、だって、ほんとにわかんないんだもん。

「ごめんなさいっ、ごめんなしゃいぃッ゙……♡♡♡」

 必死に謝って、でも指は止まらない。お構いなしに捏ね続けてくる。感覚が抜けきっていないのに、また波が来始めて。まだ余韻が残っているうちに次が来るから、全部が混ざり合ってぐちゃぐちゃになる。

「っあ゙♡♡!!??むりっこれむりむりっあっあっやめで♡♡♡!!!!」

「我慢」

「むりだよ゙♡♡!!!」

 またぎゅ〜ってなった。またイった。でも指は止まらなくて、体の震えが収まらないまま、また次が来る。

「まっでッ゙でんじぐっ゙、こぇ゙ッ゙つらい゙♡♡!!!づらいっ゙♡♡♡」

「知ってる。でも一回限界まで気持ちいいの覚えたら、軽く触られたくらいじゃ効かなくなんだろ。だからこれも練習」

「ゔあああ゙♡♡♡!!! やだやだやだやだやだ♡♡♡!!!!」

 ボロボロと泣いて枕に顔を押しつけようとして——枕を取り上げられた。ぐちゃぐちゃの泣き顔が急に空気にさらされて、きょとんとした顔のままぱちぱちと瞬きをした。な、なんで……。

「あのさあ、それもすげぇ失礼なんだけど」

「ほ、ぁ、ぁ……?」

 頭がぐるぐるしていて、言葉の意味が一拍遅れて入ってくる。

「人に触って貰ってんのに顔も見せねぇのかよ」

「ぁ……そ、しょ、か、ごぇっ、ごぇんなしゃぃっ……♡」

 そっか。そうか、それも。失礼、なのか。ぐずぐずと鼻を鳴らしながらなんとか顔を上げると、デンジくんが左手を差し出してきた。

「ほら、代わりに手貸してやるから」

「うう……これなら、しつれ、じゃない……?」

「ああ。平気だから、思いっきり縋って良い」

「う……♡」

 それなら遠慮なく。……というか、遠慮するほどの余裕も、無いんだけど。

 恋人繋ぎに絡めて、ぎゅううううううと力いっぱい握りしめる。デンジくんが丈夫なのはしってるから、加減もせずに思いっきり。体ごと縋り付いてしまいそうなくらい力を込めて、ぼろぼろ泣きながら、気持ちいいのを必死に我慢して。つらい、つらい、つらい。……こんなにつらい思いをさせてるのはデンジくんなのに、デンジくんに縋ってるって、変じゃないか。うううう……。

「はふっ、はふっ、はふ……うぅ゙……うううううゔ♡♡♡!!!!」

「辛そ……ああでも」

「ぅ……?」

「これまだ序盤だからな」

 じょばん? だって、こんなにつらいのに……。なんで、って聞こうとした瞬間に、その意味を理解する。

 ぐりゅ。突起の上を覆ってたものがめくられる感じがあって、すぐ直に、勃起したところを、にゅくにゅく〜って二本指で擦られて。

「あ゙!!!!ぞれだめぞれだめぞれだめやめてッ゙♡♡♡あ゙あ゙あ゙♡♡♡!!!!!」

 さっきまでとは全然違う。全然、全然別物だ。

 脳天まで突き抜けるみたいな、ぎりぎりの線を全速力で走らされているみたいな感覚。

「ほら我慢、我慢」

「むりむりむ゙り゙む゙り゙じんじゃうだずげでっいや゙♡♡♡♡!!!」

「死なねえってこんくらいじゃ。ほら、がんばれがんばれ」

「あああああ゙♡♡♡♡♡!!!!!」

 泣いて喚いて大暴れした。手足をじたばたさせて、それでも左手だけは繋いだまま。でも体は左手で押さえつけられているから全然動けなくて、逃げることも隠れることもできなくて、声が出るたびに涙も出て、涙が出るたびに声も出て。

「ひっ、ひっ、ひっ、ひぃ゙ッ゙……♡♡♡」

 気がついたら、全身がぐったりしていた。体中の力が抜けて、繋いだ手だけが辛うじてデンジくんに触れている。大泣きして呼吸が乱れたまま、しゃくりあげながら天井を見ている私に、またキスがきた。

「こんだけ辛いの覚えたら、最初の軽いのじゃイけなくなっただろ」

「わかんない、わかんにゃいい゙……」

 わかんない。これが練習になったのかどうかも分からない。むしろ逆で……さっきよりも何か、感覚をこじ開けられてしまったみたいな感じがある。敏感になっている気さえする。全部が研がれて、鋭くなって、前より弱くなってしまったような。これって私がおかしいの?

 正直……正直、怖い。やだ、もうやめたい。こわい。

「も、もういいっ……」

 思わず口を突いて出る。

「もうしょじょのまんまでいいっ……やめる、やめるっ……」

「あ?なんだよ今更」

「えっち、こんな、たいへんなら、しないぃ……」

「はあ……?」

 返ってきた声は、呆れとも困惑ともつかない色をしていた。

 少しの沈黙があって、それから、私の頭にデンジくんの手が乗った。さっきまでとは全然違う穏やかな温度で。泣いている子どもをあやすみたいに、ゆっくりと撫でる。

「ごめんごめん、ちょっと怖かったな」

 うう、私……私、何してるんだ、いい年してっ……。

「ごめん、しょっぱなから大変なことさせすぎたな。……アンタなら出来ると思って、無茶させすぎた」

「う、うぅ……」

「でも、アンタなら頑張れると思って」

 そんな、安い言葉。

 睨みつけるけど、デンジくんは平然とした顔をしている。

「だって副隊長、俺よりお姉さんだろ。ちょっと辛いのくらいなら耐えれるだろうと思ったけど……無理だったか、そっか」

「あ……」

「そんじゃ俺服着るから。……はあ」

 頭を撫でていた手が離れた。デンジくんが体を起こして、脱ぎ散らかした服の方に手を伸ばす。そんな安い言葉に乗るものかという気持ちと、ここで見くびられたくないきもち。煽られてるのは分かってる。分かってるけど……。

 その姿を、ぼんやりと目で追って。

 ちらっと見たら、めちゃめちゃ勃起していた。

「……で、でんじくん、それ……」

「別に、放っておいたら収まる」

「で、でも……う……」

「怖いんだろ、無理すんなよ」

 だめ、だめ、これだって絶対、デンジくんの策略のうち、なのに……。

 自分でもなんだかよく分からない感情が体の中をぐるぐるしていて、うう〜って変な声が漏れた。

「あの、でんじくん……」

 小さく名前を呼ぶ。見た目が20代の頃のままで、かつ私が可愛い顔をしていてよかった、と心から思う。いい年して中々にきっつい仕草をしているとは分かっているけど、今だけはそれでいい。今だけは、許してほしい。

「あの……あの、でんじく……」

「ん」

「が、がまん……やっぱり、できる……」

「あ?辛いんだろ、無理すんなって」

「で、できるもん……」

 デンジくんが振り返って私の顔をじっと見た。測られている。

「つづき、する……がんばれる……」

「……」

「が、がまん、ちゃんとするから……やめないで……」

「……出来んの」

「できる、できる……」

「次はもうやめろって言われても止めねぇぞ」

「う、ん」

「俺だって、けっこー我慢してるから」

「う……う、ん……」

 勃起しているのをちらりと盗み見た。それから恐る恐る、足をぱか〜って開く。やっぱりどうしても恥ずかしいけど、でも他に方法がない。

 また、手が伸びてきて……指先が軽くクリに触れて、反射的に悲鳴が出た。

「や、や……」

「大丈夫、もうここは触んねーから」

「う……ごめんなしゃい……」

「いいよ、俺も無理させすぎたし」

 そうして言葉通りに、中だけをちゅくちゅくと丁寧に捏ねてくる。

 う……。なんか、さっきよりずっと気持ちよくて、でもクリがない分だけ、ぎりぎりのところを踏み外さずにいられる。体の奥からじわじわと広がる重たい熱を、歯を食いしばりながら、ぐっと押しとどめる。できる。焦らなければ、これくらいならできる。

自分の体と少しずつ交渉しながらシーツを握って耐えていたら、指が、するって三本に増えた。デンジくんの指って、けっこう、太いんだけど、あれ、三本も入ってるんだ。全然痛くない。でもそれはそれで恥ずかしくて、口を押さえる。

「で、で、でんじくっ、てっ……!」

「手?」

「ひだりて、ぎゅうする手、貸して、貸してっ……ちょ、と、つらいから……!」

 涙目でお願いしたら、「ああ……」ってちょっとびっくりしたような声が返ってきて、でも黙って左手を差し出してくれた。その手に飛びつくように縋りついて、指と指を絡めて、体ごと引き寄せるくらいの力で握る。デンジくんの手はやっぱり大きくて、私の手がすっかり埋まってしまう。それがなんだか、今夜いちばんほっとする感触だった。

「……あ゛ー……くそ。くそ、なんでこんな……」

 突然、デンジくんが天井を仰いだ。長い息を、ふー……って吐き出す。

「な、なに、どうしたの……」

「…………悪い、俺もちょっと限界近いわ。そろそろ入れていい?」

 心臓がどくん、と跳ねた。

 入れる。入れる、というのは、つまり、そういうこと、だよね。とうとう……。

「あ……う、うん、えっと、入れても大丈夫なの?」

 それって多分デンジくんじゃなくて私が決めることなんだろうな、本当は……とは思いつつ、でもデンジくんの方が私より女の体に詳しいだろうし……。

「…………、…………痛くない、ようにはする」

「う、うん……」

 せーじょーい……で、足を開かされて、先端が入口にぐ、って当てられる感触がした。反射的に全身が緊張して、デンジくんが私の両手を取って、恋人繋ぎのまま、ぎゅうう……って握り込む。さっきとはまた違う力の込め方で。痛くない程度に、でも確かな重さで。

「……なあ。今更、こんなこと聞くの、アレだけど」

「んっ……な。なあに……」

「マジで、処女貰うのが俺で、いいわけ。他にも居ただろ、アキとか、もっと若い男とか、他にいくらだって居ただろ」

 こてん。今更、って。ほんと、深いところまで来てから聞くことじゃないとも思うんだけど。

「やだったら、デンジくんにお願いしたりしないよ……」

「……」

「は……はじめて、デンジくんがいいって思ったから、お願いしたんだもん……」

 ふー……、また長い息がデンジくんから漏れた。それから間を置かずに、唇が重なった。さっきまでのどれよりも深くて、呼吸を合わせるのに苦労する。

「んううっ……う、う……♡」

 舌が絡まって、息の仕方を忘れて、全身の力が抜けていく。その隙に体重をかけられて。

「痛くねぇ?」

 唇が少し離れて、至近距離で声がした。鼻先がくっつきそうな距離で目が合う。

「へ、へいき……」

「そっか」

 また唇が重なった。ちゅく、ちゅく、って柔らかいちゅー。それと同時に、ぷちぷち、って、中で何かが微かに破れるような感触が、奥の方からした。

「ん、ん……!」

 痛い、というほどじゃない。鋭い痛みを想像していたのに、拍子抜けするほどちょっとした痛みだった。今まで何もなかった場所を、今初めて誰かが通り過ぎた、みたいな。それくらいの違和感。

 恋人繋ぎの手を力一杯握りしめながら、目を閉じて、その感覚が落ち着くのを待っていたら。

 はっ。

 処女とかそれ以前の、もっともっと前段階の大問題に気がついた。

「あ、あ、あ、あ、で、デンジくんっでんじくん!!!」

「ん、どした?痛い……?」

「ちが、ちがっ、だっ、い、一回抜いて!」

「だから急にどう——」

「ごむっ!ごむしてない!」

 少しの沈黙が落ちる。

「……ああ?」

「し、しないとっ、あかちゃんできちゃう!」

 ちょっとだけ間があった。私はその間を使って、そうだよそうだよ、当然でしょ、大事なことだよ、って頭の中で主張を固める。ちゃんとしないといけない。避妊って大事だから。一回抜いて、準備して、それからちゃんと——

 腰が、ゆさゆさし始めた。

「っ……!

デンジくん聞いてっ、あ、あっ……!!」

 全部、強すぎる感覚に持っていかれる。頭の中で並べていた言葉が、一個残らず。体の中にデンジくんがいるという事実が、波のように何度も押し寄せてくる。気持ちいいのか怖いのかもよく分からない。とにかく頭が追いつかない。

「で、でん、でんじく、だめ、だめ、ごむ……!!」

 胸に手を当ててやんわり押してみても、デンジくんはひびかない。押し返されるわけでもなく、ただ私の手ごと体重をかけてきて、動きを止めない。

 それどころか唇を重ねられて、とうとう、物理的にも何も言えなくなった。

 声の出口を塞がれたままゆさゆさと腰を振られる。頭の中にあった言葉が全部、デンジくんの舌の動きに溶かされていく。ダメ、って言おうとするのに、口からはくぐもった声しか出てこない。

「ん……つーか、妊娠したら不都合あんの」

 しばらくそうしてたけど、そのうち、私が本当に窒息しそうになっているのを見て、デンジくんが残念そうな顔をしながらも唇を話した。

 息を整えるのに必死になってるところに、上からそんなことを言われる。

「は……えっ……?」

 一瞬、その意味がよく理解できなかった。

「デビルハンター引退して普通の女に戻るんだろ。なら、子供産んで育てればいいじゃん。アンタ、昔っから子供好きだし。……俺と副隊長のガキなら、絶対可愛いし頭もいいって」

 ゆさゆさ。ゆさゆさ。私を揺さぶる腰は止まらない。きもちいい。わかんない。なにが、どうなって。

「は……は?は?え?」

 子供。子供、って言った、今。デンジくんが。私たちの、って。わた……わたしたちの……?

 や、そもそも、えっと、そ、そういう問題じゃなくて、え?だ、だって、結婚もしていないし、今日初めてで、そもそも今日まで友人として付き合ってきた関係で、え?え?

「ど、どういう……いみ……」

 混乱しすぎて、目がうまく焦点を結ばない。

「別に、そのまんまの意味だけど」

「あか、あかちゃんって……ちが、きょう、しょじょそつぎょうしたかっただけ……こども作りたかったわけじゃ……」

 ごりゅって、言葉を遮るみたいに奥をえぐられる。な、なんで。なんでこんな……。

「ひ」

「ん~……俺はこのまま作る気しかねぇけど」

「え、あ……な、なんで、あ、あ!?」

「というか、初めてなのにゴム付けるなんて勿体ねぇことするわけねーだろ」

 声のトーンは驚くほど平静で、まるで当然のことを言っているみたいだった。

「もった……な、なんでっ……あ、あ、だめ、だめっ……」

 小刻みに子宮をゆさゆさされて、お腹の奥がじんじんしてきた。温度を持った圧迫感が、体の内側から広がっていく。これはなんだろう。気持ちいい、とも、苦しい、とも、ちょっと違う。

「気持ちいい?」

「わっ、わかんない、じんじんするっ……!」

「そりゃポルチオは無理だよなぁ……まあ、ここもゆっくり時間かけて開発してくから」

「そっ、そんなのたのんでないっ!!っ……さ、さっきからっ、おもってたけどっ!」

 足をじたじたさせて暴れた。意味なんて、ないんだけど。

「かってなことっ、しないでっ……!しょじょ、は、たのんだけどっ……まーきんぐ、とか、しつけとか、たのんでないもんっ……」

 涙目でぷるぷる震えながら言い切ったら、デンジくんが動きを緩めて、私を静かに見下ろした。何かを考えているような、少しの間を伴って。

「は……俺はアンタの為を思って言ってんだけど」

「ぅ、ぅあ……」

「処女喪失ん時は記念に中出しすんのは普通に生きてたら知ってて当然の常識だし、躾なんてクソめんどくせぇこと提案してんのも、アンタが恥かかねぇようにだろ。それを言うに事欠いて頼んでないって、はは……俺が悪いみてぇに」

 うそ、うそだ、えっちの常識なんてわかんないけど、ぜったいぜったい、その理屈はおかしい。分からない私だって、それくらいのことは分かる。分かる、から、どうにかうまく反論しようとしたけど、こんがらがった頭ではうまく言葉が出てこなかった。

「でも、でもっ……でもっ、にんしん、こまるっ……!」

「だから、そのリスク引き取るの込みで処女卒手伝ってんだろ。処女貰った男の責任として、妊娠したらちゃんと結婚すっから」

 頭が真っ白になった。

 結婚。……けっこん? けっこん、って、あのけっこん?

「しっ……そっ、それっ、ほんとのはなしっ……!?」

「ああ。こんな意味わかんねぇ嘘つくかよ」

 確かに……たかだか処女卒業を頼まれたくらいで結婚まで面倒を見なきゃいけない、だなんて、デンジくんばっかり責任が重くって、デメリットしかない嘘だ。本当? そうなの? ぐるぐる頭で考えた。処女を卒業する相手は選んだ方がいい、みたいなの、もしかして、それが理由? なんか、言われてみたら、ああってなる、ような。

 とんでもないことを頼んでしまった。そういう重みがあるものだとは知らないで、軽い気持ちで頼んでしまった。

「ご、ごめんなさいっ……」

 震える声で必死に謝る。

「そんな重いことって知らないで頼んじゃったっ、ごめんなしゃいっ……」

「いいって、気にしないで。俺たち短い付き合いじゃねぇだろ。赤ちゃんできたら一緒に育てような」

「うぅ……♡」

 そう言ってまた舌を入れたキスをされながら、ゆさゆさと腰を振られる。言葉の重さと体の感覚が全部一緒に押し寄せてきて、頭の整理が全然追いつかない。

「ほら、腰振りやすいように自分で足抱えて。……そろそろ出そう、だから」

「う……」

「俺がこんだけ協力してんだぞ。アンタも協力しろよ」

「う、うう……ひゃい……」

 言われるままに、両足を抱えた。だってそうするほかはない。そうしたらデンジくんが少し深く入ってきて、「あ゛っ゛♡」てきたない声が出て。

「んっ……」

 でも同時に——イかないまま終われそう、って気がついた。突起さえ触られなければ平気みたいだ、私って。

 ドキドキしながら、もうちょっと、もうちょっとで終わり、って思っていたら。

 デンジくんが、急にすっごく真面目な顔をした。

「ほら、中出し懇願して」

「ぅえ……こんがっ……こんがん……な、なんで?」

 なんだ。なんだそれ。いみがわからない。今、こっちは、抱えた足を投げ出さないように必死にしてるのに。

「常識だろ、中に出して貰う時はちゃんとおねだりすんの。これ言えねぇの挨拶出来ねぇのと一緒だからな」

 あいさつ……そ、それは大変失礼なことだ。でも、な、なんて言えばいいんだろう。わたわたしながら、意を決して、

「なっ……なかだしして、ください……」

「んー……30点。もっとちゃんと誠意を込めて」

「せいいっ!?」

 せいいって、なんの。分かんないのに……必死になってあれこれ考える、空っぽの頭で。

「な、なかだししてください、お願いしますっ」

「40点。もっと媚びて、下品に」

「げひっ……むっ、むりだよっ!!」

「じゃあいつまで経っても終わんねぇけど。ほら、これも練習だろ?ちゃんと自分で考えて」

 ぷるぷる震えて唇を噛んだ。恥ずかしい。今夜でいちばん恥ずかしいかも。でも終わらないよりはいい。意を決して、

「で、でんじくんの精液、わっ……わ、わた……わたしの、なかに、いっぱい中出ししてください、。……、お願いします……」

「……ふー。まあ、及第点か」

 及第点だったらしい。もうなんにもわかんない、なんでこんなにセックスって大変なの。

 腰の動きが一段と速くなった。ガツガツと、今夜いちばんの力で。それからしばらくして、体の奥の一番深いところに、びゅくびゅく〜……って、熱いものが広がっていく感触があって。

「あっ、あっ……」

 中で、脈打っている。デンジくんが、私の中で。その事実だけが、どうしようもなくじわじわと体に染み込んでくる。

「ほら、ありがとうございますは?」

「あっ……あ、ありがとっ、ございますっ……??」

「違う、さっきと一緒みたいに言って」

「ぅっ……で、でんじくんの、中出ししてくれて、ありがとうございますっ……♡♡」

「ん……よしよし、100点100点」

「ぅ……」

 ふるふると震えながら、天井を見上げる。子宮の中がまだじんわりと熱くて、体中がぐったりしている。でも、不思議と、嫌じゃなかった。嫌じゃない、というか、なんというか。

 ……結婚、って。

 さっきのデンジくんの言葉が、じわじわとまた頭に戻ってきて、ことの重大さを突きつけてくる。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



翌日の仕事は、記憶がないくらいには頭が空っぽのまま終わった。

 業務中ずっとなんとなく、下腹部がじくじくしているような気がしていた。気のせいかもしれない。気のせいであってほしい。でもコベニちゃんに「今日はなんだか……顔が赤い気がするんですけど、体調のほうは大丈夫ですか?」と心配されたので、多分気のせいじゃない。

「ちょっと熱気味なのかなあ。お気遣いありがとう、大丈夫だよー!」

と笑って誤魔化したけど、コベニちゃんはずっとなんか心配そうな目でこちらを見ていた。見ないでくれ。頼む。こっちは色々あって余裕がない。


 それでもどうにかいつも通りに立ち回って、普通に二時間残業をして、書類を片付けて、挨拶して、退勤した。

 したはずだった。

「デンジくん、なんで私の退勤時間にここにいるの……」

「迎えに来た」

「迎えに来たって、どうして……」

「手を出した以上は最後までちゃんと面倒見ようと思って」

 普段は何があっても定時退社するくせに。そんなに責任を感じることもないだろうに……根っこが真面目な子だから、け、けっこんが、どう、とか、子供のこととか、結構重たく考えてるのかな……。

 デンジくんは私の返事を待たずに踵を返して、駐車場の方へ歩き始める。私はしばらくそこに立ち竦んでいたけど、どうしようもないな、と思って、しぶしぶ追いかけた。


 デンジくんの家には、立派なお風呂がある。

 脱衣所にヒートランプがついてて、浴槽はジャグジー付きで、シャワーも壁のあちこちに何本もついてる。成功者の家ってかんじのお風呂だ。

 でも今そういう感想が出てくるということは、まだ私の頭が多少まともに機能してるということで……あと何分、まともでいられるんだろう。

「デンジくん……えっちするときって、そんな……が、がっつり頭とかも、洗うものなの?」

「ん、なんで?」

「メイクとか、落とすのちょっと恥ずかしいなって……」

「いいじゃんべつに、アンタはすっぴんでもかわいいよ」

 お湯の張られた浴槽をあっさり無視して、デンジくんは備え付けの風呂椅子を引っ張り出して、タイルの上に据えた。どかっ、と腰を下ろす。湯気の中に、裸のデンジくんが座っている。

「いす……あ、デンジくん身体あらうなら、私、外出た方がいい?」

「いや? ほら、こっち来い」

「……え」

「どこ乗りゃいいか分かるだろ」

 それは……な、なんとなく、もう、わかるけど。

「……その、あれ、昨日みたいな感じで……?」

「そう」

「うー……」

 唸りながら近づいて、言われた通りに乗った。デンジくんのひざの上に、向こう向きで。大きな腿が、後ろから私の太腿の外側に当たってる。湯気がむわっとする。シャワーの音。浴室の白いタイル。自分の足先が、タイルの上に力なく伸びている。

 デンジくんの手が内腿に触れる。

「足、外に出して。俺の足の外側に引っ掛けて」

 恐る恐る言われた通りに動かす。そうすると、自然に、足が大きく開いた形になる。閉じようとしても、デンジくんの足が外側から押さえているから、閉じられない。恥ずかしい、かなり、そうとう、恥ずかしい。

「で、でんじくん……」

「うるさい、静かにしてろ」

 耳の後ろに唇を当てられた。そのまま耳たぶを、はむって。同時に、下から、指が、直接。

「んっ……♡」

 昨日よりもずっとすぐに甘い声が出た。もう体が、昨日のことを全部覚えてる。デンジくんの指の感触を認識した瞬間に、すっ、て体中のスイッチが入る感じ。

「っ……あ、ん……♡んっ」

「ちゃんと濡れてんな。いいこいいこ」

「やぁ……そゆの言わないで……♡」

 お湯の音。湯気の熱さ。デンジくんの体温がわたしの背中に密着してて、どこからどこまでが湯気の熱でどこからが体温なのか、もうよくわからない。

 デンジくんのふとい指が、小さな突起をくちゅっとつまんで、こね回す。

「ふ……ぁあ♡!」

「我慢しろって」

「む、むりっ……♡そこ、だめっ……」

 それが意味のない言葉なのは分かってる。デンジくんはやめてくれないし、私は止める手段を持っていない。腰を逃がそうとしても、後ろからデンジくんにがっしり体を抑えられているから、せいぜい数ミリしか動けない。

「あ、あっ……♡あぁっ……♡!!」

 止めようもなく、すぐに一回目が来た。

 背骨に電流が走って、足先がじわじわと痺れて、体中がぶわっと一気に粟立つ。声を止められなかった。浴室中に反響する。

「こら、声でかすぎ。全然イくのも我慢出来てねぇし」

「だってっ……ふぁ……♡」

「まだ」

「はっ、は……♡!」

 震えが収まるか収まらないかのタイミングで、もう指が動き始める。ここも昨日と同じだ。容赦がない。体中から力が抜けて、ぐったりしそうなところをぐいっと引き戻される。

「っく……あっ……あ♡ぁ♡!」

「我慢しろって言ってんだろ」

「むりっ……もり……♡♡」

「努力しろよ」

 努力。どやって。この状況で。

 結局二回目も、三回目も、ぜんぶぜんぶ我慢なんてしようがなくて、おっきい声が出た。デンジくんがそのたびに「うるさい」とか「我慢しろ」とか言って、でも手は止まらなくて、強制的に押し付けられる快楽の波にどんどん頭が溶けていって。四回目の後から、気が付いたら泣いていた。いつ泣き始めたのか自分でも分からない。

「ご、ごめんなしゃい゙っ゙♡♡……ごめんなざいっ゙……またイきますっ♡♡♡」

 謝ることしかできない。謝ることで自分の形をなんとか保とうとしているような。

「ほんと我慢出来ねぇな。謝るより先にイかないように出来ねぇの」

「むりっむり゙なんだもん゙♡♡♡!!!」

 必死に内腿を寄せようとしたけど、デンジくんの足がすっかり外側に押さえていて、ぴくともしない。それどころかむしろ、力を入れて逃げようとした拍子に、クリに当たる指の角度が変わって、さらにだめになる。

「あ゙あ゙あ゙♡♡♡!!!!」

「暴れるな」

「だってっだってっむりなんだもんむりなんだもん♡♡♡!!」

 びたん、と太腿をデンジくんの腿に叩きつけながら、わけのわからない声で喚いた。しゃくり上げながら。

「……っ、ふ……♡ちが、のっ!だめなの、とっき、なのっ! 中はへーきっ!」

 クリが特別弱いだけで。中は、中は平気で。だから、クリをこんなに集中的にやられたらそりゃあ頭おかしくなるけど、それは別に……あれだよ、訓練すれば……。

「……外側もっと鍛えろってこと?」

「ちがう♡♡!!!」

 ちがう!訓練がたりないとかじゃない!

「ほ、ほかのひととえっちするときっ!くりだめっていうから!!そしたら粗相しないから!!」

 言ってから、自分でどれだけ甘えたことを言っているのか気が付いて、また泣きたくなった。

「はあ……」

 デンジくんのため息が耳の後ろに落ちる。ちょっと間があった。この沈黙の間に、あれこれ頭の中で考えているのが分かる。

「中は平気なんだな?」

「んっ、んっ……なか、なかはへいき……!!」

 なかは、平気。多少触られてもどうにかなる。だから……だからそっちをやってくれれば……!

「……言ったな?」

「……ぅ」

 いった、けど……。

 そんな風に確認されると、ちょっと自信がなくなってくる。我ながら半端だ。なにもかも。

 デンジくんの指が、すぅ、と下にずれた。外側ではなくて、内側に向けて。

「あ……」

 中に指が二本、一気に入ってくる。昨日散々広げられて余裕があるせいか、簡単に、深いところまで。ふわっとした圧迫感がお腹の内側いっぱいに広がる。


 最初は大丈夫だった。

 昨日もさんざんいじくられた所だし、だから、慣れてる……はずで、はずなんだけど。今日のデンジくんの指の角度が少し違って、入り口から少し奥の、上側の、なんかざらざらしたところを、指の腹でわざと引っかけるみたいに触れてきて。

「ん……♡ん、ぁ……」

 なんか、ちょっと、変だ。

 中だから平気、って思ってた。突起の方と違って、鋭くてすぐだめになっちゃう感じじゃないから、まだ考える余裕があると思ってた。

 でもデンジくんの指はそのまま、そのざらざらしたところを、指の腹で、こねこねってする。ぴったりくっついたまま離れなくて、丁寧にねちっこくこね続けてくる。

「あっ……あっ、んっ……♡」

 一分。

 二分。

 えっと、たぶん、そろそろ三分……。

 変、だ。おかしい。さっきまでと違う種類の感覚が、下腹部の奥からじわじわと広がってきている。鋭くない。むしろずっと低くて、ずっと重くて、鈍い。波みたいに、じぅわっ、じぅわっ、って体の芯から広がってくる。頭の奥がじんわりしてくる。ふわふわする。息が上がる。

「あっ……あっ、あ」

「……息上がってっけど」

「で、でんじく……な、なんか、そこ、へんなの……」

「変って」

「わ、わかんないけど……っ、ちょ、と、触るのやめて……」

「中は平気なんだろ」

「だ、だいじょうぶ、だった、だったんだけどっ……なんか、ちが、の……そこはちがうっ……!」

 足をじたばたさせた。今度は内側でなく膝を上げて外側でなく、ただ本能的にどうにかしようとして、でも完全にデンジくんに体を抑えられていてどこにも逃げられない。

「あ、あ、あ、あ、あ♡♡♡!!!まってっなんかくるっきちゃうっ♡♡♡♡♡!!!!」

「は? 中は平気なんだろ?」

「なんかっちがうだめっだめっちがうっやめてっあ゙♡♡♡♡!!!!!」

 ちがう!平気って言った時と全然ちがう!これは別の話で、何か……中の、さっきまでとは別の何かを、捕まえてる。内側の、今まで意識したこともなかったような場所に指の腹がみちっとくっついて、離れないで、ただそこだけを……。

「っ、あ!あ……ッ゙♡♡!!」

 くる。くる、くる。波じゃない。もっと内側から。引っ張られるような、絞られるような、今まで一回もなかった種類の感覚が、ねこねこされるたびにどんどん積み重なって。足の力が抜けてる。爪先が勝手に反り上がってる。頭の中がじわじわと真っ白に近づいていく。

 ぼろぼろ涙がこぼれた。声が、うまく出ない。喉がひきつって、息が、うまく吸えない。

「っ~~~~~♡♡♡♡」

 結局、外側を触られてるときと同じような衝撃に、全身が小さく縮こまる。なんとなく種類は違うけど、これもたぶん、イってるってことなんだろう、ってことは、簡単に察しがついた。

「……はあ」

「ちがっ……ちがうの、ごめんなさいっ……」

 しゃくり上げながら謝った。なにに謝ってるのか自分でもわからない。

「中じゃイかねぇっつってたじゃん。外側の練習辞めたくて嘘ついたってこと?」

「ちがうのっ……ひっ、ひっくっ、うあああっ……♡♡」

 違う。違うんだけど。説明しようとしても言葉が出ない。だって頭の中がぐちゃぐちゃで、考えがまとまらなくて、涙と声と呼吸が全部ぐちゃぐちゃになって出てきてしまって。

 顔を隠すみたいにちっちゃく縮こまろうとしたら、背中にがっしりとデンジくんの腕が回って、逃げられなくなった。と同時に、逃げようとしたことへの報復みたいに、もう一方の手が私の胸を正面から掴む。

「うあ゙♡♡!!??」

「ほら、練習再開。歯ァ食い縛れよ」

 中と、クリと、今度は両方同時に指が押し当てられる。

「む゙り゙♡♡!!!む゙り゙っ゙もぉイきたぐない゙ッ゙♡♡♡♡!!!!」

「じゃあ我慢すればいいだろ」

「むりだもん゙♡♡♡!!!!」

 同時は無理! 同時は、さっきのと、前の、同時には、絶対に無理だ!

 我慢とかそういうのじゃなくて、そもそもきっと、私の体が耐えられない!

 腰を揺らして、肩を揺らして、どこかに逃げようとして。でもどこにも逃げられない。デンジくんの腕の中で、ただぐちゃぐちゃに暴れて———


 気がついたら、ベッドの上にいた。

 どうやって浴室から運ばれたのか、全然覚えていない。気がついたら天井が白くて、背中に柔らかいものが当たっていて、デンジくんの家のベッドの上に転がっていた。

 全身から力が抜けている。

 指先一本動かす気力もない。太腿の内側が、まだびくびくと痙攣している。目蓋が重い。頭の中がぽわぽわしている。何回イったっけ。数えてたのは……たしか七回目くらいまで。あとはもうわからない。それ以上カウントする余裕がなかった。

 ただ、自分が相当ひどい有様になっているのは、なんとなく分かる。目が腫れてる。顔が濡れてる。声が擦れてる。体中がぐちゃぐちゃだ。

「で、じ、く……」

 かろうじて音を出した。言葉というより息に近い。

「ん、水。さっき散々漏らして脱水状態だろ」

「漏らしっ……」

 ああ、そういえば……。最後の方、もうなにがなんだか分からなくなってきた頃。なんか、下の方から、あのなんか、もらしみたいな……。なんか、した気がする、そんな気がする、でも、なんにも……もうわかんない……。

 デンジくんが水を持ってきた気配があって、それが視界に入る前に唇に何か当たった。口移しだってわかっても避けられなかった。体を動かす余力が一ミリもないもの。されるがままに、デンジくんの口から水が流し込まれて、涙目で飲んで、また流し込まれて、飲んで。冷たくて、美味しかった。なんか、こんな状態でも美味しいと思える自分がちょっとおかしい気がするけど。

「……ふ、んっ……♡」

「ちゃんと飲んだ?」

「のんだ……」

 デンジくんが私の横に腰を落とした。シーツが沈んで、体がほんの少し傾く。ぼんやりと横を見ると、デンジくんが私の顔をみている。

「そんじゃ、次本番」

「……ぅ」

 なんともいえない。いやとも言えない。ていうか今この状態でいやって言える気力がない。ただなんとなく、下から何かが当たる感触がして、ああ、もうそういうフェーズなんだ、と思っていたら。

「あっ、あっ、ごむっ……♡♡」

「子供作るんだろ、なんでゴムするんだよ」

「え、え、あっ……」

 またむき出しのそれを下半身に押し付けられて、思わずシーツを蹴った。そんな話、に、まとまったんだっけ。約束、したような、してないような。したのかも。でも、それが目的ってことはなかったような……わからない。わかんない。頭がぽやぽやする。あんなに散々ぐちゃぐちゃにされた後だから、もう、考えるための部品が全部どこかに行っちゃってて。

「あっ……」

 入ってくる。指とは全然違う、大きくて、熱くて、中いっぱいに広がるような感覚。それで、昨日とは違って——上側の、ざらついたところに、先端が当たった。

「あっ……! あ゙♡♡!!」

 さっきまで指で延々とこね回されていたそこを、奥から下から、こんこんって突き上げられる。

「んあ゙っ♡♡♡!!!!」

 また呆気なくイった。さっきまでのが全部まだ残っていたから、ほんの少し当たられただけで簡単に体が気持ちよくなる。全身がびくんって跳ねて、視界が白く弾けて、それを見たデンジくんが、なんか言ってる気がする。

「……な、副隊長」

「ぅ……」

 聞こえたけど、返事ができなかった。必死に呼吸しながらシーツを握りしめながら、絶え間ない衝撃に耐えることしかできない。


「明日から三連休だけど。俺、アンタのためにちゃんと休みとったから」

 ……うぁ?

 耐えることしかできない、なりに、頭の中で、その言葉がゆっくりと形になっていく。三連休。休みをとった。アンタのために。

「三日間みっちり鍛えような。俺もきっちり付き合うから」

「……っ? あ、え?」

 鍛える。三日間みっちり?えっと。それ、って。三日間ずーっと、こういうやつを、ずーっと続けるってこと? あのお風呂みたいなのが、三日間、あ、あ。

「や、やだ、そんなのやだ……!かえる、かえる……!」

 体の力が戻ってきたわけじゃないけど、でも本能的に、ばたばたと手足を動かした。起き上がろうとした。でも腰を押さえられて、ってベッドに縫い止められる。

「ダメ。デビルハンターの訓練と一緒だって、ここでやだやだ言ってたら後々子供作るときに苦労すんのはアンタだぞ」

「せっくすっ、せっくすできなくてもこまんない! こどもっ、ちがうほうほう、かんがえる! こんな、こんなつらいならしないっ!!」

「はあ?_ 違う方法?」

「せっくすしないほうほうっ!!」

 本気で思ったから本気で言った。こんなに頭がおかしくなっちゃうようなら性行為なんてしなくていい。私は別にしたくてしてるんじゃなくて、いや、したくてデンジくんにお願いしたのは事実だけど、でも、こんなに、こんなにひどいことになるなんて思ってなかったんだもん。

「あのなあ。不妊治療にも枠ってのがあんだろ。健康体の癖に甘えたこと言ってんじゃねーよ。ほら、さっさと自分でも腰振れ」

「やだっ……もうきもちいのやなのっ゛♡♡!!」

 真面目なお説教なんて少しも頭に入ってこない。逃げようとして、捕まえられた。ベッドの上で、ころん、って上下が変わった。気がついたら上から重さがかかってて、あ。

「あ゙っ♡♡!!」

 ガンガンって、さっきの優しい動きとは全然違う。容赦がなくて、激しい。散々ぐちゃぐちゃにされて、ぐったりした体に、さらに鞭を打たれてるみたい。

「っ、んぁ゛♡♡!! ゃっ、ゃぁぁ……♡♡♡」

「ほら、今子宮こりこりされてんの自分でわかる?」

 わかる。感覚が過敏すぎて分かってしまう。内側のいちばん奥が、デンジくんの動きに合わせて、こり、こり、ってされてる。さっきまで指でやられてたのとは違う、もっと鈍くて重い刺激が、下腹部の深いところにじわじわと溜まっていく。

「ふ、ぅ、ぅ゛ぅ゛ぅ゛……♡」

 答えられない。声しか出ない。

「本当はここでイくのが正しいセックスなんだよ。なのにアンタは他ん所でイきまくって、肝心のここはあんまり気持ちよくないんだろ?」

「うぅ……♡♡わた、わたっ……へ、へん……?」

 言いたい言葉が、うまく言えなかった。変なんだろうか、私。クリとか中の上側とか、そういうところばっかりで気持ちよくなって、ちゃんとしたところでは全然で。

「ああ、変。すげぇ変。でも三日で俺が治してやるから、安心して体預けていいよ」

 頭に大きな手のひらが乗った。

 腰は動いてるのに。こりこりされてるのに。そのくせ頭を撫でる手だけは、信じられないくらい穏やかで優しくて。

 低い声が耳の近くに落ちてくる。

「三日あるから焦んなくていい。……ちゃんと、全部付き合うから」

 うう。デンジくんなりに、寄り添ってくれてるんだ。めちゃめちゃな手段ではあるけど。私の体がおかしいのを、ちゃんと直そうとしてくれてる。三連休まで作って。きっちり付き合うって言ってくれて。

 ……私も、頑張らなきゃ、なの?

 あれ、でも、わたし、そんなの、たのんでなくて……あれ、あれ……。

「……ぅ……でんじ、くん」

「ん」

「み、みっかかんっ゛……みっかかんっていっぱいあるから……いまは、すこし、やすませて……♡♡♡」

「だめ。そうやってすぐ諦めようとすんなって」

 ひどい。少しくらいは、私の身体のことも考えてくれたっていいんじゃないか。

「……というか、現状他ん所でイきまくる癖はそう簡単には治んねぇだろうし、ここでイけるようにすんのが先か」

 デンジくんが独り言みたいに言った。考えているような、納得しているような声。こっちは全然そんな余裕ないのに、なんでそんなに冷静なんだ。

「ちょっと体勢変えるぞ」

「う゛……ど、どうするの……」

「子宮捏ねやすい体勢にするから」

「こね……こねこね……」

 言葉の意味を処理する前に、体を動かされてる。気がついたら、うつ伏せにされていた。ベッドに顔を向けて、腰だけ持ち上げられて。自然に膝が折れて、後ろから全部丸見えになるような体勢になる。後頭部まで血が上る羞恥心があったけど、逃げる体力が残っていない。

 後ろからデンジくんに体重をかけられる。

 入ってくる、と思った瞬間に、ごり、って……さっきより全然違う角度で、さっきより全然違う深さで。重力とデンジくんの体重が全部一緒にかかって、子宮が押し潰されるような圧迫感が、お腹の奥いっぱいに広がって。

「ぁ……ぁ……♡」

 もう声にならなかった。息が漏れただけみたいな。ごちゅ、ごちゅ、って。浅くゆっくり、でも確実に、いちばん奥だけを、ごりごりこちゅこちゅ、って捏ね回される。押し潰して、ほぐして、また押し潰して。

「どう?」

「わ、わかんない……おもいっ、つぶれるっ……♡」

 それが全部だ。ちゃんとした言語化なんて出来ない。内側から知らない感覚が積み重なっていく。気持ちいいとかよりも先に、重い。下腹部が重くて、じんわりと熱くて、なにかがたまっていく感じがして。

「それが気持ちよくなるまで頑張ろうな」

 また頭を撫でられる。そんな、あたまなでられたくらいで、つらいのがどうにかなったり、しないのに、安心しちゃうのが、くやしい。

 涙目でシーツを噛む。声を殺そうとして、でも殺しきれなくて、くぐもったなき声みたいなのがシーツに吸い込まれていく。



 それから、どれくらい経ったのか分からない。

 それで、えっと、そうしていたら……。

「あー……俺のが先にダメかもしんねぇ」

 さきに。デンジくんの声が少しだけ変わった。

 いつもの冷静な声より少しだけ低くて、少しだけ掠れていて、ああ、これは、あれだ。限界が近い時の声だ。正直なところ、少し安心した。やっと終わる。ほっとして、全身から力が抜けていく感じもあって。

 ……あ。でも。

「ぁ……でんじくんっ……」

「ん」

 呼んだはいいけど、次の言葉が出てこなかった。恥ずかしくて。でも言いたくて。言わなきゃいけない。それが常識、なんだから。

「で、でんじくん……でっ……」

 口籠って、シーツに顔を半分埋めたまま、それでもどうにか声を絞り出す。

「……でんじくんの、せーえき……いっぱいなかだしして……あかちゃん、つくって……♡」

 ああ、もう、しにたい。しにたいしにたいしにたい。こんな恥ずかしいことを世の中の女性はみんな言ってるなんて、信じられない。

 言えたと同時に、後ろでデンジくんがぴたっ、と静止した。妙に驚いた顔をして。

 それから一瞬の間があって——いきなり体を起こされた。腰を両手でがっしり掴まれて、持ち上げられて、デンジくんに後ろから上半身を抱きしめられる。

「あ゙、あ゙♡♡??」

 あまりに急で、あまりに深くて、あまりに強くて。さっきまでゆさゆさとじっくり溶かされていたいちばん奥を、今度は上から一気に殴りつけられる。ガン、ガン、ガン。ちょっと、痛いくらいのつよさで。

「あ゙あ゙あ゙♡♡!!??!?」

 びっくりして縮こまって、でも縮こまっても逃げられなくて、ただ全身をガクガクさせながらデンジくんの腰に合わせて揺さぶられながら。なんか、急すぎてびっくりしてる、でも奥のさっきまでゆっくり解されてたところをいきなりガンガンされるから、なんか、気持ちよくて、こわくて、全部一緒に混ざって。

「あ゙ーーー、今のすっげぇ効いた。ひっっさびさに抜かないで続けるやつ出来そう」

 デンジくんの声がちょっと笑ってる。でも余裕のない笑い方。息が乱れてる。

「う、ぁっ♡♡!!?ごめ、ごめんなさいっ♡♡!??」

「違う違う!すげーいいよ……ほんとかわいい……ああ、ああ、絶対子供作って結婚しような」

「ぁ……!?」

 なんか、それは、けっこん、けっこん、でも、それは、もし子供ができちゃったらの話であって、なんか、なんか、ちがう、ような。でも、子宮をこりこりされてて、ガンガン揺さぶられてて、頭の中でその混乱を広げるための場所がどこにもなくて。

 デンジくんの手が、私の腰をもっと強く引き寄せた。ずっと一番奥に押し当てながら、ぐ、って止まって。

「ふ、ぅぅ……♡」

 どく。どく。どく。内側でデンジくんが脈打つのが分かった。熱い。すごく熱い。

「あっ……あり、がと、っ……♡ございますっ……♡」

 朦朧とした頭で、どうにかそれだけ言えた。言葉になってるのかどうか自分でも分からなかった。でも言いたかった。なんとなく、ちゃんとお礼を言わなきゃって思った。

「はーーーーー…………。ちゃんと俺の言い付け守れていいこ。いいこ……よしよし……えらいえらい、よく頑張ったな〜……」

 ゆっくりと横に引っ張られる。崩れるみたいにベッドに転がって、大きな腕の中に収まる。後ろから包まれる形で。心臓の音が聞こえる。少し速い。

 結婚、って、言ってた。こども……こども。出来ちゃったら、どうしよう。わたし、デンジくんと結婚するの……?

 ……あとで、ちゃんと聞かなきゃ。起きたら、ちゃんと、聞かなきゃ。

 そう思った次の瞬間には、もう半分眠ってて。


[newpage]


「っあ゛!!???♡♡♡♡」


 それで、目が覚めたら、もう次が始まってた。天井が白い。デンジくんの家の天井だ。体の下にデンジくんの家のシーツがある。窓から朝の光が入ってきていて、眩しくて、でも目を閉じたら閉じたで余計にだめだった。視覚情報が消えた分だけ、体の感覚が全部前に出てくる。


 デンジくんが、上から、私に覆いかぶさって腰を振っている。遠慮のない動きで。これが昨日の夜から続いてるのか、それとも今朝また始まったのか、判断する余裕がない。

「あ゛ー、アンタってほんと酷いよな」

 デンジくんの声が頭上から落ちてきた。なんか、若干呆れてる声だ。

「俺、死ぬほど興奮してそのまんまやり続ける気満々だったのに、先に落ちるとかさあ」

 先に落ちた。えっと、えっと……つまり、昨日の夜、私が先に寝た、ということらしい。

 そりゃそうでしょ、あれだけやられたら寝落ちしてもしょうがないじゃん、とは、思うけど、そう叫ぶための肺の空気が全部別のことに使われているので、口から出てくるのは喘ぎ声だけ。

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ゙……♡♡ あや、あや゛まるからっ゛!! もっ、せっくす、やすみたいぃ゙っ……♡♡」

 休みたい。本当に休みたい。昨日の夜から一体どれだけ……お風呂でも、ベッドに来てからも、どれだけ辛い目にあったか、自分でも覚えてない。触られすぎて、いじられすぎて、もう自分の体なのに、どこからどこまでがデンジくんに触られた場所なのかわからない。全部が過敏になってる。シーツが当たるだけで変な感触がするくらいには。

「はあ? 8時間も俺の事放置して一人で寝てたんだから十分だろ」

 8時間じゃ足りない! ぜったいぜったい足りてない! だってまだ体の奥の奥がじくじくと重たくて、太腿の内側がまだ微妙に痙攣していて、目の周りが腫れぼったいのに! 最低でも、一週間は休みたいのに!

「ほら、もっとちゃんと息して」

「むりっ゙、むり゙……♡♡ ひっ、ひっくっ、ううう……♡♡」

 そのやりとりをしてる最中にも、内側の上側をぞりぞり擦られ続けてる。ここが一番ダメだってもうとっくにバレてるから。バレた上で、ここを選んでやっているから、逃げられない。どれだけ腰を揺らして逃げようとしても、ぴったりくっついてくる。いじわる、いじわる、いじわる……!

「ひっ……あっ♡♡ またっ……またっ゛♡♡♡」

「我慢しろって言ったろ」

「むりなんだもん゙♡♡♡!!! むり、むり……!」

 何回目かわからない波。体が勝手に反応してしまって、声が出て、足がばたばたとシーツを蹴る。

 大粒の涙が出てきたのも、ちょうどその瞬間だった。

 涙が耳の横を伝っていくのが感触でわかる。泣きたい訳じゃない。泣きたい訳じゃないから、泣き止みたい。……でも仕方ない。何回もイかされて、疲れてて、体がしんどくて、でも止まってくれなくて、どうしたらいいのかわからなくて。泣くしか、できない。

 でも、泣いちゃったから、デンジくん、ちょっとは優しくしてくれるかも——

「ひあ゛あ゛あ゛っ♡♡♡♡!?」

 けれどそんな淡い期待に反して、むしろ打ち付ける腰は激しさを増している。

 不意打ちのような形で思いっきり一番奥を叩かれて、思わずしわがれた声が出た。自分でも聞いたことのない声が。

「あ、あ、あ……♡!!!」

 昨日の寝バックの記憶が全身に蘇ってくる。ゆさゆさと延々とこねくり回されてるときの感覚。なんていうか、あれ以来、ここは変だ。昨日の夜、また深いところまで入れられてから、もっと変になった。触れる度に変な汗が出る。体の奥が、じわっ、って反応する。こわい。なんか、こわい。

 また先端が子宮を押す。さっきまでの上側じゃなく、もっと奥。いちばん柔らかいところを、先端でとん、て。

 首をふるふる振った。小さく。意味があるわけじゃないけど、振らずにいられなかった。

「こわいっ……いちばんおく、こわいぃ……」

「怖くったって今どき高校生のガキでもやってる事だぞ。ほら、頑張って我慢して」

「ひっくっ……うあああ゛……♡♡♡」

 泣きながら言ったのにこんこん奥を揺さぶる腰の動きが止まらない。昨日延々とこねくり回されてから、身体のつくりが違うって分かってしまう。触れるたびに変な汗が出て、体の芯がじわじわ溶けるみたいで、だから怖い。気持ちいいって言葉に変換するには、なんか、まだ、足りない。よく分からない。こわい、としか言えない。

「ほら、泣くなって。……なあ、ふくたいちょ」

「ひっ、ひっ……なぁ……に……♡♡」

「気持ちいい?」

「ちが……こ、こわい……♡」

「それは聞いてない。気持ちいいか聞いてんの」

 角度を変えてまた奥を小突かれた。びくんと全身が跳ねて、シーツを両手で掴む。

「っ……! ぁ……♡♡」

「どう?」

「……わ、わか、わかんないけど、た、たぶん、きもち……きもちいい……♡♡」

 言わされたようなものだ。こんなの。半分泣きながら、しゃくり上げながら。言いたくなかったけど、言わないと次に進んでくれないだろうなって予感もあって、言わずにはいられなかった。

「よかった。……ほら、もう一回言ってみて」

「も、もいっかいっ……」

「もう一回。気持ちいいです、って」

「……き、きもちいいっ。です……♡♡」

「よしよし……ちゃんと言えたな。いいこ、いいこ。今は言わされてるだけでも、声に出してたらそのうち本当に気持ちよくなってくるだろ」

 頭をぽんぽん叩かれる。それくらいじゃ嬉しくない。……嬉しくないはずなんだけど。なんか、えらいって言われたら、無意識にうれしい自分もいて。ほだされてる。絆されてるのかもしれない……それもなんか怖い。

「なあ。俺のこと、好き?」

「ぅ……す、すき……♡ いつも、頼り、に、なって……っ゛♡」

「それは前から知ってるけど。そういう好きじゃなくて」

「ぅ……そ、ういう、のじゃない、って、なに……」

「セックスしてるデンジくんのことも好き?」

「ぁ、あっ……しら、しらない゛っ♡♡!!」

 こん、こん。催促するみたいに奥を殴られる。

「ひぁ゛っ゛♡♡!! す、すきっ……♡♡♡ はずかしいけどっ、すき……♡♡」

 浴室とは違って吸音材もなにもないベッドルームに、自分の声が情けなく響く。

「ちゃんと言えんじゃん」

「い、いわ、いわせたのっ゛……♡♡」

「……じゃあ今度は自分の意思で言って。ちゃんと好き、って」

 デンジくんの動きが少し変わった。

 さっきまでのこつこつした突き方から、もう少し深くて、重い動きに。奥を押し当てながら、ぐ、ぐ、ってこねるような。昨日の夜の、あの優しいのにちょっと怖い動き。

「ぁ……あっ……♡♡そ、ゆ、のって、じぶんのって、いわな……♡」

「細かい御託はいいから、ほら」

 じわじわくる。鋭くない。鈍くて、重くて、体の奥のいちばん柔らかいところを、じっくりと溶かしていくような。昨日より少しだけ早く、その感覚を認識してしまう。

「っ……すき、すき、すきだから……♡♡……そこ、やだって……♡♡」

「やだって言うの禁止。気持ちいいか怖いかで答えて」

「……こ、こわいっ……♡♡♡」

「ふぅん……」

 こっちは涙と鼻水でぐちゃぐちゃだし、声もぜんぜん止められないし、マシって実感が全然ない。でも心のどこかでは、昨日より少し、気持ちいいって感覚が分かってきてる気がする。それが怖い、という話でもあるんだけど。

「……そんじゃ、ちょっと体勢変えようか」

「ぅ……♡?」

 一旦中から大きいのを引き抜かれて、身体を持ち上げられて、あれよあれよという間に気がついたら上下が入れ替わっていた。気がついたらデンジくんが下で、私が上に乗せられていた。えっと、なんだっけ……たし、たしか、騎乗位、ってやつだ。

 上から見下ろすと、デンジくんの顔が真っすぐ目に入る。眉間にはシワひとつない、涼しい顔。こっちはぐちゃぐちゃなのに。

「じ、じぶんで……うごくの……?」

「そ。ここから先は自分でやってみて」

「むりっ、むりだよっ、どうやって……」

「腰前後に動かせばいいだけだって。簡単だろ」

「かんたんじゃないっ……!!」

 泣きながら抗議しても、デンジくんはなにも言ってくれない。あ、これ、自分で動かないと何も進まない顔だ。でも、どうやって、どこをどう動かして、なにを……。

 でも、ずっとこのままでもいられないから、恐る恐る、腰を動かしてみた。前に少しだけ。

「んっ……♡」

 自分で動いた刺激で声が出た。なんか、されるがままになってる時より、10倍近く恥ずかしい。

「ちゃんと動いて。そんなんじゃいつまで経っても終わらねぇって」

「う……うぅ……♡」

 無茶言わないでほしい。ひとまずおっかなびっくりで、ほとんど揺れてるだけみたいな動きで腰を揺らした。そのたびに中でデンジくんが当たる感触があって、じわじわとさっきの感覚が戻ってきて。

「もっと腰落として……自分のいい所、そろそろ分かって来てるだろ」

「むりっ、むりっ゛……♡」

「駄々こねねーの。大人なんだから」

「大人じゃなくてもいいもん゛♡♡!!!」

 ……ここ、っていうのは分かってる。散々こねくり回されてきた、いちばん奥のとこ。そこにちゃんと当てながら動けってことなんだろうけど、そ、そんな自殺行為、出来るわけない。

「あっそ。じゃあまた体勢変える?」

「……ぅ」

「俺に上から虐められるより、自分で動かした方が怖くないし楽だろうなって思ったけど。……自主練出来ないなら、やっぱ荒治療の方がいいか」

「うう゛~~……。……いじわる、いじわるいじわるっ゛……♡♡」

 いじめてる自覚があるならもっと優しくしてくれてもいいのに。というか、そんな荒治療とか、私、そもそも頼んでないのにっ……デンジくんが勝手にあれこれやってるだけじゃん! なん、なんか、流されちゃってるけど!

 ……とはいえ、ここでまた「全部やだ!」って突っぱねたら、問答無用でまた虐待される未来が目に見えている。

 意を決して、恐る恐る腰を落とした。自分から奥に向けて角度を調整して。

「あっ……! あ……うううう~~……♡ こ、こわい……♡♡」

「は……自分で動いてんのに怖いの?」

「う……う゛……♡♡」

 怖いに決まってる。脅されて自分の弱点を嬲ってるんだもん。

 泣きながら腰を揺らした。自分で腰を動かしながら、怖いって言いながら、でも動かすたびにあそこに当たって、じわじわくる重い感覚が積み重なっていく。

「ちゃんと声出して。今どんな感じ?」

「こわ……こわいっ、でも……きもちいいっ……♡♡」

「ん……その調子。ほら、もう一回声に出して」

「きもちいい……きもち……こわいけど、きもちいい……♡♡♡」

 言いながら腰を動かしてたら、だんだん自分でもよく分からなくなってきた。怖いのか気持ちいいのか。

 そのうちに、重い鈍い感覚が、ゆっくりと、ゆっくりと体の芯から外側に広がっていく。指先まで。つま先まで。さっきとはまた違う種類の、波みたいなやつ。鋭くなくて、でも、ゆっくり追い詰められてるっていうのは分かっちゃうような、そんなの……。

「やぁ……やぁ……♡♡ こわいっ……でんじくん……♡♡♡」

「ちゃんと動けてんじゃん。えらいえらい」

 認めたくないけど。褒められると、少し、うれしい。自分で動けた。怖かったけど、ちゃんと動けた。デンジくんに言われた通りにやれた。よかった。……なんにもよくない。これは自分の意思じゃないもん。やらされてるだけ、って、そう思ってるはず、なのに。

「ほら……好きって言って」

「ぅ……ぅぅ……す、き……」

「誰のことが好き?」

「デンジくんのこと、すき……♡」

「……ん。いいこ、いいこ」

 もう、頭がぐちゃぐちゃだ。褒められると嬉しいから腰を振って、沢山好きって言って……デンジくんの意図が分からない。私をどうしたいんだろう。何がしたいんだろう……。

「……やだやだって言いながら作られたんじゃ、赤ちゃんだって可哀想だろ」

 当然のことのようにデンジくんがそんな言葉を続けるから、覆わず腰が、止まった。

「……あ……あ、あの……でんじくん……」

「ん」

「赤ちゃん……つくるの……けっていじこー、なの……?」

「こんだけ中に出してたら出来てても不思議じゃねぇだろ」

「そ……それは、ど、か、わかんないけどっ……でも、でも……」

「俺も昨日言ったじゃん、結婚しようって」

「それは……それは……もしもって話で……あれ、あれ……?」

 そうだ。昨日言ってた。結婚しようって。でもあの時の私は頭がぽやぽやしてて、え?ってなってそのまま朦朧と寝てしまって、ちゃんと返事もしてなかった。

 それを、既成事実みたいに。だってそもそもそれは「出来ちゃったら」って家庭の話で……

「おかし、よ、そもそも前提が……」

「いいから、続き。話はまた後でするから」

「ぅ……で、でも……なんか、おかしいよっ……」

「おかしくないよ、これが普通」

 普通普通って、その普通が私には分かんない、のに。

 普通って言葉で、全部が片付いてしまうのか。いや、でも、確かに、デンジくんのことを……恋愛的にはどうか、まだ、分かんないけど、人としてすきで、信頼してるのは本当で。一緒にいたいのも本当で。赤ちゃんは……赤ちゃんは、すき。子供はすき……デンジくんの子供ならかわいいかなって思う……二人でなら、育てていく環境とかも……あっ、あ、あ。

「あっ……あぁっ……♡♡ ちょっとまって、いま、あの、まとめて、かんがえようとしてるのに……♡♡♡」

「そういうのは後ででいいって」

「でも、でもっ……♡」

 考え事をしているのに下からゆさゆさ揺さぶられるから、なんにも結論がまとまらない。

「ぁ……ぁ……♡♡ でんじくん……♡♡」

「ん」

「なんかっ……なんか、くるっ……♡♡♡ こわいっ……」

「……中でイけそう?」

「わかんない、わかんないよぉぉ……♡♡」

「んじゃ一回体験してみよう、な? 大丈夫、大丈夫、怖くないから」

「ぁっ……! でんじくんっ……でんじくんっ……♡♡♡」

 じわじわと波が来てて、その波は昨日よりずっとはっきりしてて、重くて、苦しくて、ちょっと切ない感じもあって……

「ぁ……あ……~~~~……♡♡♡♡!!!」

 これまでとは、全然感覚が違う。

 全身がぶわっとなって、息が出来なくなる。脳の奥が白くなって、声が出て、思わず倒れ込んでデンジくんの胸に顔を埋めた。

 しばらく、動けなかった。

 肩で息をしながら、涙でびちょびちょの顔をデンジくんの胸にぐりぐり押しつける。心臓の音が聞こえる。どくどく。速い。

「……ちゃんと一番奥でイけたじゃん。しかも、自分で」

「……ぅ……」

「えらいな」

 今度は、もう、気がするとかそういう次元じゃなくて、ちゃんと泣きたくなるくらい嬉しかった。なんで。だって、でも、自分でできた。怖かったけど、動けた。ちゃんとイって、デンジくんの言いつけも守れて……

「……あかちゃん、の、はなしっ……」

 震える声で、胸に顔を埋めたまま言った。

「いいって……今無理してその話」

「いまっ、する、するの♡♡!!」

「……分かったよ」

 こうやって休憩を取ることを許されているうちに、

「まだ、こわい……赤ちゃん……つくるのとか、けっこんとか……いきなりすぎて……」

「そうだな」

「でんじくんのあかちゃんなら、かわいいかなって、おもうけどっ……ちょっと、かんがえたいっ……♡♡」

 嘘ではなかった。やだとは言えない。デンジくんのことがすきだから。一緒にいたいから。赤ちゃんって言葉に、怖いけど、でも怖いだけじゃない何かが混じってるから。

 デンジくんの手が私の頭に乗った。

「……分かったよ。……ひとまず、俺まだイけてないから。……終わりまで、ちゃんとやっていい?」

「ぅ……♡♡ うん……」



[newpage]



 ベッドの上からリビングとつながった先を、ぼんやりと眺める。キッチンにデンジくんが立っていて、お鍋を火にかけてる。何かを混ぜてる。背中が大きい。いつも大きいけど、今日は特に大きく見える気がした。目が腫れてるからかもしれない。視界がぼんやりしてるからかもしれない。


 体を起こそうとして、あきらめた。

 腕に力が入らない。足も動かしたくない。太腿の内側がじんじんしてるし、体の奥がすごく重たい。シーツに包まったまま、天井を見上げて、深呼吸することしかできない。

「うー……」

「起きたか。……お疲れ様」

「あ……でんじく……」

「無理して喋らなくていい」

 私が起きたのに気が付いたデンジくんが、お盆を持ってこちら側に歩いてくる。半身だけ起こそうとしたら背中に手を添えられて、ゆっくり支えてくれた。枕を重ねて背もたれにしてくれて、そこに寄りかかるような形で座らせてもらう。自分一人じゃ上手く動けなかったから、ありがたい。こういう気遣いは出来る癖に、なんで夜は全然優しくしてくれないんだろう……。……答えはまあ、分かってるけど。つまり訓練だからってこと。

 お盆の上に、小さな器が乗っている。白くてとろとろしてて、ちょっと湯気が立ってる。

「卵粥。食べれる?」

「たべれる……」

「ん」

 スプーンと器を一緒に渡されて、ゆっくり口に運んだ。熱いけど、口に入れられないほどじゃない。ちょうどいい熱さだ。じんわりと食道から胃に向かって温かいものが落ちていく感覚があってきもちいい。

「ちゃんと飲み込める?」

「うん……」

「うまい?」

「うん、おいしい……」

「そっか、よかった」

 顔を上げたら、デンジくんがこっちをじっと見ていて……それだけならいいんだけど、なんだかすごく愛おしそうな顔をしているから、すごく気まずい。ものすごく気まずい。えっちしてるときはあんなに意地悪だったのに、今度はそんな顔で見られていて、どんな顔をしたらいいのかわからない。

 そっと視線を逸らして、また一口食べた。

「……あのさ」

「ぁ……う、うんっ」

「俺だって虐めたくて虐めてるわけじゃねぇの」

「あっ……ぁ……うん……」

 それはわかってる。多分……頭では、わかってる。虐めたくてやってるんだとしたら、ちょっと……それは、大分引く、ので。そうじゃなかったら困る。かなり。

 スプーンを器に置いたら、お盆ごと横に持っていかれて、代わりに抱きしめられた。

 わしゃわしゃ頭を撫でられる。大きな手で、ぐしゃぐしゃと。おでこだとかほっぺだとかに、ちゅ、ちゅ、って、何度も唇を重ねられる。それで、もう片方のほっぺにも。こめかみにも。全部にちょこちょこ~って。

「いい子いい子」

「ぅ……」

「”副隊長”さんなら、ちゃんと最後まで頑張れるだろ」

「う……あっ」

 ハッとした。つい流れで頷いてしまった!

 最後まで。最後まで、って、三日間の、一番終わりまで。それってつまり、まだまだまだまだあのつらいのが続く、ってことで。続くのは分かってたけど、でもそれを改めて言葉で言われたら、全身がふるふる震える。

「あ、あの……デンジくん……」

「ん?」

「あの……きのう、から、さ、ちょっと、思ってたんだけど……」

「なぁに」

 声がやわらかい。撫でる手もやわらかい。喋り方も全部やわらかいから、なんだか言い出しにくい。でも言わなきゃいけない。

「あかちゃん……つ、つくる、の……? つくってる、の……わたしたち……」

「……? あれだけヤっといて今更何言ってんだよ」

「じ、じゃあ……けっ……けっこん、するの……?」

「そりゃ、まあ……出来たらしないと子供が可哀想だろ」

「で、でも……あの、今なら緊急避妊薬とか、間に合うし……」

「はあ? 俺の子供堕ろすのかよ」

「おろっ……ちがっ、出来ないようにって……」

「でももう中に出しまくってるんだし、出来てる可能性の方が高いだろ」

「ちが……だかっ、だからっ……えっと、えっと……!」

 それはわかんないけど、ああ、もう、話が全然進まない!

「そ、じゃなくてっ……! け、けっこんとか、そんな、かんたんに決めることじゃないじゃん……!」

 あ……なんか、落ち着いてご飯食べてお話してたら、だんだん冷静になってきた。なってきたら余計に、やっぱりおかしい。考えれば考えるほどおかしい。出発点は、えっちしてみたい、だった。それだけだった。それが、いつの間に結婚なんて大事に。

「え、えっちして、みたいって、いっただけで……赤ちゃん作るとか……そ、そんなの、考えれてなかったもん……」

「……」

「急に、こ、こまる……こんな、結婚とか、考えてなかったのに……」

「嫌?」

「いやとか、そういう問題じゃなくてっ」

「俺と結婚して、子供作って、幸せになんの、嫌か」

「そ、それは……聞き方がずるいっ……」

 嫌か嫌じゃないかで言ったら、嫌じゃない。嫌じゃないのは、本当に。でもそれとこれとは、話が違う。

「……わ、わかんない……なんか、分かんない……」

「俺はさ……アンタのこと絶対幸せにする自信あるぜ」

 あんまり軽くそんなことを言うから思わず反射的に反論しちゃいそうになったけど、でも、ふざけてる声じゃないから、言い返せなかった。冗談には聞こえない。ちゃんとこっちを見て、真剣な目で言ってる。

「短い付き合いじゃないし……金だって、甲斐性だって。俺なら戦闘でうっかり殉職したりしねぇし、アンタのワガママにだっていくらでも付き合ってやれる」

「でっ……そ、それは、不安じゃない、よ……。……でも、その……でんじくんは、それでいいの……」

「良くなかったら引き受けたりしてねぇよ、こんな話」

「そ……そ、れは……」

 頭の中でいろんなことがぐるぐるする。これまで生きてきて、一人でいることが当たり前で、誰かと一緒にいることを前提に考えたことが、ほとんどなかった。悪魔との契約のせいで余計にそうだった。私の契約悪魔は極端に潔癖で私が男の人と話すことさえ嫌がったし、いつの間にかそれが私の中でも当然になってたから。

「ご……ごめんなさい……」

「……あ?」

「ごめんなさいっ……そ、そんな……大変なことって知らなくて、お酒の席でお願いしたりして……わたっ、わたし……」

「ああ……それは別に、いいって」

 また頭を撫でられる。

「無知なのは別に……アンタを今の今まで縛り付けてた悪魔のせいだろ? なら、知らなかったこともこれから俺と一緒に知っていけばいいじゃん。大丈夫、大丈夫」

「う……ん……」

「俺ならその辺も理解してやれるし……はは。エッチんとき、粗相されまくっても受け止めてやれるから」

「……ごめんなさい……」

「だから……謝らなくていいって。よしよし」

 ぽん、ぽん。

「そんじゃ、残りの分も食べたら続きしような。……それとも、もうやめた方がよさそうか。……どうせ結婚すんなら、もう焦ることもねぇし」

 やめたい。それは当然、気持ちとしては、辛いことはやめたいけど。

「う、ううん……がんばれるっ、がんばれるから……」

 デンジくんが優しく笑った。いつもの顔より少し柔らかい笑い方だった。目尻に皺が寄って、それがなんかすごく好きで、見てたら胸の奥がじんわりする。




 外はもうすっかり夜だ。

 窓の外が暗い。部屋の照明は落としてあって、間接照明だけが薄くオレンジ色に灯っている。デンジくんの家の寝室は広くて、ベッドも大きくて、夜になると昼間とは全然違う空気がある。二人で一緒に寝転んで、後ろから抱きしめるみたいな形で。お腹のあたりに腕が巻いてあって、私の背中にデンジくんの胸が当たってる。密着してる。ゆっくりとした動きで、深く、奥まで。昼間みたいに矯正しようとか、鍛えようとか、そういう雰囲気じゃなくて、ただ気持ちいいことをしてるだけみたいな。

 昼間あれだけ泣きながらやってたのに、今は泣いてない。声は出てるけど、至って静かな声だ。甘い声。自分でも気がつかないうちに、そういう声が出るようになってた。

「子供、生まれたらなんて名前付けようか。……どんな名前がいい?」

 デンジくんの息が耳の後ろに当たる。

「わ、わかんない……まだ考えられなくて……あっ」

「そっか。……まあ、腹膨らんできてから考えればいいよな」

「う、うん……」

 じわじわと将来のことが現実味を帯びてくる。本当に、このままお母さんに、されちゃうのかもしれない。今、それをものすごく実感できる状況にいる。デンジくんが奥でゆっくり動くたびに、子宮がじんわりと熱くなって、そこに赤ちゃんができるんだよ、って、体が勝手に理解し始めてるみたいで。

「それで……俺から1個提案があんだけど」

「ぅ……なぁに……?」

「ほら、前も言ったけど。……ごめんなさいごめんなさいって謝って、それに俺があれこれ言いながら作ったんじゃ子供が可哀想だろ。だから、ちゃんといちゃいちゃしながらやり直そう」

「そ、そういうもの……?」

「分かんねぇけど、何となくそっちのが良い気しねぇ?」

「う、うん……そうかな……そうかも……」

「ほら、こっち向いて」

 ゆっくり体を向け直した。正面からデンジくんの顔が見える。間接照明の橙色が、顔の片側だけを照らしてる。目尻の皺が、この光の中だと優しく見えた。

 やさしいキスを落とされる。昼間とは全然違う。ゆっくりで、深くて、急がなくて。唇の形を確かめるみたいな、丁寧なキス。私もちゃんとくっつきにいった。今度は怖くないから、逃げなかった。

「俺のこと好き?」

「うん、すき、でんじくんのこと、すきだよっ……」

「そっか。俺も好き」

 動きが深くなる。さっきよりほんの少し、奥まで。でも乱暴じゃない。ちゃんと気持ちいいかどうかを確かめながら動いてる感じがする。デンジくんの手が、背中を撫でてる。髪を撫でてる。大きな手のひらが、全部包み込んでくれるみたいで。

「正式にデビルハンター引退すんのいつ? 今月末とか?」

「う、んっ……こんげつ、いっぱい……♡」

「そっか。じゃあそれまでに皆に挨拶しなきゃな、俺たち結婚しますって」

「ぅ……」

 まずコベニちゃんの顔が浮かんだ。アキくんはなんて言うだろう。隠居してる先生は……。ナユタちゃんは、まあ、なんか、すでに知ってそうな気がする、あの人のことだから。

 でもそれを全部考えようとすると、咎めるみたいにまたゆさゆさ動かれて、頭の中が流れていく。

「ん……♡ あ、あとで……あとで、ちゃんと……考える……♡」

「ん」

「でんじくん……」

「ん?」

「……な、でも、ない……なまえよびたかっただけ、なの……」

「……」

 少し間があって、また奥を突かれた。さっきより少しだけ強く。腰に手が回って、引き寄せられる。

「可愛いこと言うじゃん」

「うぅっ……♡♡ は、はずかし……」

「はずかしくない。……もっかい名前呼んで」

「やだっ」

「おねがい」

「……ぅ……で、でんじくん……♡♡」

「よし」

 押し殺そうとしてるけど、確かに声が笑ってる。笑ってるのに動きは止まらなくて、奥をゆっくりと、子宮のいちばん柔らかいところをとんとんってされてる。いい加減に慣れてきちゃって、もう、感覚としては、怖いだけじゃなくなってきてた。重くて、鈍くて、じわじわくる感覚が、なんか、きもちいい。こわいけど、でも、きもちいい。

「ぁ……あっ……♡♡」

「どう?」

「きもち、いい……♡ きもちいいよっ……♡♡」

「そっか。赤ちゃん、ちゃんとできるといいな」

「う……♡♡」

「ちゃんと育てる。約束する」

 なんだか気持ちを言葉にできなくて、デンジくんにもっとしがみついた。しがみつくものがないのに、それでも体を押しつけた。デンジくんも引き寄せてくれた。腕の中に、すっぽり収まる。

 じわじわ体の奥から、大きな波が来てる。昨日みたいな鋭い感じじゃない。もっとゆっくりで、もっと広くて、全身が温かくなっていくような。

「あっ……あぁっ……♡♡♡ でんじくん……でんじくん……♡♡」

「イっていいよ」

「う……でんじく、でんじくんっ……♡」

 名前を呼んだ。また呼んだ。呼ぶことしかできなくて、でもそれでよかった。デンジくんが、奥に、もう少し深く押し当てたまま止まる。

「ぅ……~~……♡♡」

 全身の力が抜けていく。デンジくんの腕の中で、ただとろけるみたいに。

「……ちゃんとイけるようになったじゃん」

「う、ん……でんじくんの、おかげ……♡」

「……かわい。マジでかわいい……」

「……あんま、そういうこと、いわないで……」

「はあ? なんでだよ」

 橙色の光が、まぶたの裏に滲んでいる。後ろからくすくす笑ってる声が聞こえるけど、全然、あたまに、はいってこない。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 最初は三日間どうこうって話だったのに、デンジくんが「もうその必要もねぇからいい」って切り上げたから、連休の最後の一日は二人で普通に(普通に)過ごすことになった。

「なんで、必要なくなったの?」

「あ? ……いや、別に。結婚するんだったら焦って訓練することもないだろ。いくらでもゆっくり練習できるし、他の男とする機会もないだろうし」

「あ……そ、そっか……」

「俺なら別に、ベットん上でマジの粗相されても気にしねぇしさ」

「それは……気にした方が良いと思うよ」

 カフェの椅子に座って、ラテアートのカップを両手で包む。あったかい。窓から朝の光が入ってきていて、テーブルの上の砂糖の瓶がきらきらしていて、きれい。

 デンジくんは向かいに座ってアメリカーノを飲んでいる。

「おう、待たせたのう」

「あ、パワーちゃん。お疲れ様。……ほんとに待ったよ。二時間半」

「ヒーローはなんとやらじゃ」

 このカフェにきたのは、デンジくんのバディのパワーちゃんとお話がしたかったから。

 遅刻してきた彼女はわが物顔で私の隣に座って、フルーツタルトとメロンソーダを注文した。確か、コーヒーはまだ飲めないまんま。





「ふぅ~む。……デンジは確かに元からキチガイじゃが、ここまでのキチガイに育て上げたのはウヌじゃからのう」

 届いたタルトをもしゃもしゃ豪快に食べてたパワーちゃんが、フォークを振り回しながら言った。

 私たちの結婚報告の直後のことだった。

「まあ、おあいこ様じゃの」

 カフェのBGMだけが流れている。誰かが食器を置く音がして、また静かになった。

「……?」

 おあいこ、って。どういう意味だ。……うん? あれ? やっぱりこの結婚って、なんか変なんじゃ……小首を傾げた私の頭を、デンジくんが誤魔化すみたいにぽんぽん撫でる。

「30年近く我慢してきたデンジくんのことを褒めてくれよ」

「よくそうも一途でいられたもんじゃ。あのジジイといい、拗らせた男は気持ち悪いのう」

「? 何の話?」

「拗れるまで放置する女の方が悪い」

「あ! 女性差別じゃぞ! ワシはッフェミニストじゃから詳しいんじゃあ!!」

「ねえこれほんとになんの話してるの?」

 デンジくんがアメリカーノのカップを置いて、また誤魔化すみたいに頭を撫でてくる。ごま……ごまかされ……ちゃうんだな、これが。うーん、まあ細かいことはいいか……。

「まあ、終わり良ければ、とも言うしのう。……あ! 子供が生まれたら名前はワシに決めさせろ! 超~かっこいい案があるからのう!」

「パワーちゃんってほんと変わらないよね。なんだか安心する」

「ああ。俺がここまでやってこれたのもこいつのお陰だよ」

「男ならツェペリ、女なら女ツェペリでどうじゃ」

 デンジくんは騒ぐパワーちゃんをガン無視して、アメリカーノを飲み干す。伝票に手を伸ばしてすっと立ち上がった。慣れてるな、対応。

「まだワシが食べてる途中じゃぞ!」

「食ってていいよ、俺たち先出るから」

「あ! 待て!」

 呼び止められて振り返るデンジくんに、キラキラお目目のパワーちゃん。

「デンジが会計を終える前にショートケーキも注文させろ! ホールで!」

 ホント凄いなこの子。


 窓の外の朝の光が、テーブルの上にまだきらきらしている。コーヒーカップを置いて私も立ち上がった。


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